先週末に起こった暴動を見て、恐怖を覚えると同時に、とても悲しくなりました。前回のブログでお話しした『壊し屋』による暴力や破壊行為は決して許されるものではありませんし、政府は断固として戦うべきだと思います。

ただ黄色いベスト運動自体に関しては、問題が奥深く、解決は一筋縄ではいかないでしょうし、非常に時間がかかりそうな気がします。

今回のデモではフランスの社会構造や、日本との文化の違いを改めて考えさせられました。下記に綴ることは単に私、一個人の意見であり、決して「フランス社会とはこういうものだ!」と一般化するものではございませんので、その点はご了承くださいませ。

私的見解ですが、黄色いベスト運動がここまで台頭した背景には、(1) フランス人が自分の主張をするよう育てられていること、(2) 低所得者層の間で「自分の購買力が低いのは政府のせいだ」という考え方が広く蔓延していること、(3) 貧富の差が大きく、富裕層に対する敵対心が非常に大きいこと、が影響していると思います。

今回のデモが始まった時に最初に感じたのが、「社会的に弱い立場とされている人でも、自分の主張をはっきりと言うところは、さすがフランス人だな」ということです。自分の意見を主張することの大切さを、フランスでは小さい頃から叩き込まれます。そのことを象徴するような私自身の体験談を一つ、お話しさせていただきますね。

先日、小2の娘の担任の先生と面談した時、「あなたのお嬢さんは困った時にお友達には相談するけれど、教師には絶対に助けを求めに来ません。問題があった時は、大人に伝えるように、よく言い聞かせておいてください。例えばあなたのお嬢さんの親友の○○ちゃんは、「xxちゃんがこんなことをしたんです。どう思いますか?なんとかしてください」と校長室で頼んだりもしていますよ」と言われ、とても驚きました。こんなに小さい頃から、お友達との揉め事を校長先生に直訴する子供がいるとは!!!そして「問題があったら上の人に訴えるよう子供に指導しろ」という、担任の先生からのアドバイスにも軽い衝撃を受けました。

このように育てられたら、気に入らないことがある時は市長さんにも、社長さんにも、そして大統領にも直訴するような大人になる訳だ、と心から思います。

次は2つ目のポイントである『低所得者層の間で「自分の購買力が低いのは政府のせいだ」という考え方が広く蔓延していること』についてのお話です。私から見ると「各自のお財布事情と政府を結びつけるとは、ちょっと無理があるのでは?」と思っていしまいますが、このように信じている人がフランスでは驚くほど多いのです。日本人的な考え方だと「家計が苦しいのは、自分の所得が低いから、または所得の割に使い過ぎてしまったから」というように「自分のせいだ」と結論付けるのが普通なのではないでしょうか?

一体どこからこんな発想が出てくるんだ、と不思議なのですが、その理由の一つは極めて高い税負担から来ているものと思われます。財務省のサイトに掲載されているこちらのグラフをご覧ください。国民負担率の内訳の国際比較を示しています。

(出典 : 財務省ホームページ)

ご覧の通りフランスでは、租税負担率と社会保障費負担率を合わせた国民負担率が67.1%と非常に高いのです。米国の33.3%、日本の42.6%を遥かに上回ります。これでは「税負担が高い」=「政府のせいで可処分所得が低くなってる」という公式が、フランス人の頭の中に無意識のうちにインプットされるのも無理はないのかもしれません。社会保障費負担が特に高いんですよね。そのお蔭で、健康保険を始め社会保障が充実しているので、決して悪いことばかりではないのですが、そのようなポジティブな側面については今回のデモでは全く言及されていません。

最後に3つ目のポイントである貧富の差の問題に関してですが、単に資産や所得の金額の違いだけでなく、富裕層と、そうでない人たちの間に、まるでかつて存在していた階級の違いを彷彿させるような大きな壁が立ちはだかっているように感じます。

数ヶ月前に、フランス人とお金との関係について本を出版した哲学者の講演を聞く機会がありました。その哲学者は貧しい家庭出身だそうで、低所得者層のお金に対する感情に精通していました。質素な家庭はお金持ちに対して、憧れではなく嫉妬や敵対心を抱き、「お金がある家庭は、貧乏な家よりも多くの問題を抱えているものだ」と信じ込む傾向にあること、仕事で成功して財を成し遂げた人に対して米国ならみんな率直にその成功を讃え、うまくいった秘訣を聞いたりするところ、フランス人はお金の話をタブーとする風潮があるので、そういう単刀直入な質問は出ないことなど、まさに的を言い当てた論議が満載でした。

黄色いベスト運動の参加者たちは「政府はお金持ちのための富裕税(ISF)を廃止したのに、電気自動車が買えずにディーゼル車に乗らざるを得ない貧しい人たちに対しては燃料税を引き上げようとするのか。そんなことが許されてなるものか!」と怒り爆発なのですが、その言葉の裏には上記のようなお金持ちに対する気持ちがあるのです。

フィリップ首相は4日、燃料税の引き上げを6ヵ月延期することを発表しましたが、黄色いベスト運動の反応は「対応が遅すぎる」「我々が望んでいたのは燃料税引き上げの延期ではなく、撤回だ」など、辛口の意見ばかりです。もはや当初の目的であった燃料税引き上げ反対のみならず、最低賃金の引き上げや富裕税の復活など、低所得者層が希望する様々な要求が次々出てきています。

どうにもおさまらない国民の怒りを収めるため、5日、政府は2019年度の燃料税の引き上げを廃止、来年1月からの最低賃金の引き上げなどの措置を発表しました。ところが黄色いベスト運動の参加者たちはまだ納得がいかない様子で、今度の土曜日のデモは予定通り行われることになりそうです。マクロン大統領に対する不満が膨れ上がり過ぎて、政府がどのような提案をしても事態が収まらない状況と化しています。

直近の世論調査(Ifop-Fiducial調べ)によるとマクロン大統領の支持率は23%にまで落ちたとか。この窮地からうまく抜け出せる方法を、マクロン政権は果たして見つけることができるのでしょうか?