コロナ感染拡大による夜間外出禁止令や2度のロックダウンの影響で、フランス経済は大きな痛手を受けています。経営難に陥る企業を支援するため、今年の春より政府は様々な措置を打ち出しています。今回のコラムでは2020年12月30日時点で適用されている企業への主な支援策をまとめてみました。

コロナ禍において特に打撃を受けた業界を、政府は « セクター1 (S1)»、 « セクター1bis(S1bis)» の2つに選定し、それぞれの業界に属する企業に対しては非常に手厚い支援策を用意しています。S1には観光、イベント、文化・スポーツ関連の業種が含まれ、S1bisにはもっと広範囲の様々な業種が含まれています。詳しくお知りになりたい方は、フランス経済・財務省のこちらのページをご覧ください。

社会保障費や税金の延納が可能

コロナ禍における政府の措置により、営業停止や業務の制限などを受けた雇用主は、来年1月に支払い予定の社会保障費や税金を、自ら申請することによりペナルティーなしで一部、もしくは全額を延納することができます。

自営業者に関しては、国が定めたコロナによる被害が大きい業界(S1とS1bis)に入る場合のみ、社会保障費の天引きが自動的に延期されます。延納によるペナルティーはもちろんありません。

法人税・TVA(付加価値税)の早期還付

ネット経由で依頼することにより、法人税やTVAの控除額が、これまでよりもスピーディーに還付される仕組みが整えられました。

企業に不動産物件を貸す業者・賃貸人への支援

「物件の貸主が家賃を放棄してくれるのであれば、税額控除の恩恵をプレゼントしますよ」という措置です。この措置により、借主にとっては家賃が払えずに財政難に陥るという事態が改善され、貸主にとっては家賃を放棄する代わりに税額控除を受けることができるようになります。

この措置が適用される借主(企業のみ)は、2020年11月にロックダウンにより顧客を迎えることができなくなった企業、または、【2020年3月25日の政令第2020-371号】で定義されているコロナで大打撃を受けた業界の企業であり、尚且つ、以下の条件を備えていることが条件となっています。
● 従業員5000人未満であること。
● 零細企業を除き、2019年12月31日時点で経営難に陥っていなかったこと。
● 2020年3月1日時点で破産していなかったこと。

上記の条件を満たせば、11月にドライブ・インやネット販売業務を行っていた企業(賃借人)も対象範囲内となります。

条件を満たす借主(企業)に物件を貸している企業または個人の大家が家賃を放棄した場合、次のような恩恵を受けることができます。
■ 従業員250人未満の賃貸人(個人)や企業 ➡ 未払い家賃の50%に当たる金額の税額控除
■ 従業員250人~5000人の賃貸企業 ➡ 未払い家賃の50%(但し家賃の3分の2を限度とする)に当たる金額の税額控除

連帯基金からの補助金

連帯基金から補助金を受けるための条件は、2020年12月現在、次のようになっています。

【お客様を迎えることが禁止された全ての企業】
コロナ感染拡大を防ぐための法令によりお客様を迎えることができなかった企業は、10,000ユーロ、もしくは2019年度の売上高の20%に当たる金額(但し最大でも月200,000ユーロまで)を補助金として受け取ることができます。

【観光、イベント、文化、スポーツ関連などの業種で営業はしているが大打撃を受けた企業】
観光、イベント、文化、スポーツ関連の業種(S1)で、売上高が50%以上減った企業は、会社の規模に関わらず10,000ユーロ、もしくは2019年度の売り上げ高の15%に当たる金額の補助金をもらえます。売上高が70%以上落ちた企業は、売上高の20%に当たる金額を受け取ることができます。但し補助金は最大でも月200,000ユーロまでです。

【上記以外で打撃を受けた業種(S1bisのカテゴリーに入る業種)】
S1bisのカテゴリーに入る業種で、従業員50人未満、そして売上高が50%以上落ちた企業は、最大10,000ユーロ(売上高の80%まで)の補助金を受け取ることができます。

【それ以外の全ての業界で、営業はしていたがロックダウンで大打撃を受けた企業】
従業員50人未満の企業で、売上高が50%以上、落ちた企業は、一月あたり最大1,500ユーロを受け取ることができます。

公的保証付きの融資

フランス政府は3,000億ユーロの公的保証付きの融資枠を用意しました。規模・形態に関わらず全ての会社(ただし不動産民事会社SCI、融資会社などは除く)が利用できます。申し込み期限は2021年6月30日までです。融資上限額は2019年度の売上高3ヵ月分です。革新的な会社、もしくは2019年に設立された会社の場合、最大融資額は2年分の全従業員の給与総額となります。融資を受けた初年度は返済の必要がなく、その後、社長の判断により1年~5年の間に返済することになります。融資利率は2022年~2023年に返済されるのであれば1~1.5%、2024年~2026年に返済されるのであれば2~2.5%となります。

もし、この公的保証付きの融資が拒否されてしまった場合、企業は公的な融資調停機関(MEIDATEUR DU CREDIT)に相談することにより、他の融資を紹介してもらえる可能性があります。

一時的失業に関する措置

次のいずれかの条件に該当する企業が、一時的失業に関する措置を受けることができます。
● 政令により業務を停止しなければならなかった企業
● 活動の縮小や財政難を余儀なくされた企業
● テレワークや社会的距離の保持など従業員の健康を守るための措置を取ることができない企業

従業員は、雇用主から額面給与の70%(最低でも時給8.03ユーロ)の補償金を受け取ります。最低賃金(SMIC = 1,539.42ユーロ)未満の報酬しか得ていなかった従業員は、一時的失業以前の報酬の全額が支給されます。雇用主は、従業員への補償金額の85%を国から受け取ることができます。但し国からの支給額は従業員ごとに最大でも最低賃金の4.5倍(月6,927ユーロ)までです。ここでいう『従業員』には正規雇用のみならず、CDDや研修生も含まれます。

レストラン、観光、ホテル、スポーツや文化関連、航空、イベントなど特に打撃を受けた業界に対しては、2020年12月31日まで、雇用主が従業員に支払った補償金の全額を国が援助してくれることになりました。

源泉徴収の税率の変更と税前払金の延納

フランスでは2019年より源泉徴収方式が始まっておりますが(参照 : 当社の過去コラム記事)、所得額に大きな変化があった場合は、税務署サイトから源泉徴収率の変更を依頼することができます。例えば今年、所得が大きく下がったとしたら、税務署の源泉徴収サイトに行き、本年度の推定所得額を入力することにより、源泉徴収率を下げることができるのです。

自営業者の所得、不動産所得などに対して所得税前払金が天引きされている人が、引き落とし日を延期してもらいたい場合は、税務署の源泉徴収サイト上で依頼を出すことができます。毎月徴収されている場合、『支払いを翌月に持ち越したい』という依頼を年に3回まで出すことができます。四半期ごとに徴収されている場合は、『次の四半期まで支払いを持ち越したい』という依頼を年に一度だけすることができます。


このように政府はコロナ禍を企業が乗り切れるように様々な措置を用意しています。どの支援策についても、自ら申請しないと受けることはできませんので、「もしかしたら自分は該当するかも?」とお考えの方は、今すぐ政府のサイトをチェックしたり、税務署や会計士などにお問い合わせになられることをお勧めいたします。せっかくこれまで上手くビジネスが回っていたのに、コロナにより存続の危機に陥ってしまった企業が多数あります。政府の措置により、なるべく多くの企業がこの辛い時期を乗り越えてくれるといいですね。