日本と同様、フランスでも、公的年金だけで安心の年金生活を送ることは難しい時代に突入しています。各自で将来に向けた準備ができるよう、フランス政府は以前より節税の恩恵を受けられるような私的年金商品を導入してきました。しかしながら、従来の商品は、自営業者のための『マドラン法に基づく年金商品』、会社員には『PERCO』や『Article 83』、そして全ての人が使える『PERP』など、職種に応じて商品が分かれており、しかもそれぞれの特徴や税制が異なるため、とても理解し難い仕組みになっていました。

そのため私的年金の利用者数はなかなか伸びず、フランスで一番人気の資産運用商品Assurance Vieの残高総額が1兆7000億ユーロ(約204兆円)であるのに対し、私的年金の残高総額は僅か2200億ユーロ(約26兆4000億円)しかありません。

私的年金をもっと魅力的なものにするために、政府は今年の春に可決されたPACTE法により、それまでいくつにも分かれていた様々な私的年金商品をPERという1つの商品に統一しました。その統一されたPERの中に、個人型と企業型の両タイプが存在する、という形になります。

新しい私的年金PERは、使い勝手が良く、全ての人が税制の恩恵を受けられる優れた商品です。今回のコラムでは個人型PERの特徴や税制を、従来の個人型私的年金PERPと比較しながら詳しく見ていきましょう。

入金方法

新商品PERも、従来のPERPと同様、誰でも口座を開設することができます。「毎年一定額を必ず入金しなければならない」などという義務もありませんので、自分のペースで好きな時に自由な金額を入金することができます。

既に開設済みの従来の商品(PERP、マドラン法の年金、公務員のPREFONなど)から、PERの新しい口座へトランスファーすることもできます。またPER間のトランスファーも可能です。

受取方法

公的老齢年金を受給開始年齢に達してから、自ら申し込みをすることにより、PERPやPERから年金を受け取り始めることができるようになります。

従来からの商品PERPでは次の2つの受取方法のみが認められていました。
1) 終身年金として受け取る。
2) 残高の20%にあたる金額まではまとめて引き出すことが可能。残額は終身年金で受け取る。 

PERでは年金生活が開始する際に、それまで積み立てたお金をまとめて受け取るか、終身年金として受け取るか、もしくはその両方を組み合わせるかを、自ら選択することが可能になります。具体的には次の4つの選択肢が用意されています。

1) 一度にまとめて受け取る。
2) 段階的に引き出す。
3) 終身年金での受け取る。
4) 一部をまとめて受け取り、残額を終身年金で受け取る。

新商品は、従来のPERPよりも自由度がぐっと高まります。

年金生活に入る前に、一括引き出しが認められる条件

通常、私的年金商品に入金したお金は、公的年金受け取り開始時まで引き出すことができません。しかし従来からの商品PERPでは、例外として次の5つの場合に限り、年金生活前の引き出しが可能となっています。

1) 解雇され失業保険を受け取っていたが、その期間もいよいよ終わってしまった、という場合。
2) 会社が倒産してしまった場合。
3) 身体障がい者となり、労働を続けることが困難になってしまった場合。
4) 配偶者、またはPACSのパートナーが死亡した場合。
5) 過剰債務状態に陥ってしまった場合。

新PERでは上記5つの条件に加え、6つ目の条件として『居住用住居購入のため、お金が必要になった場合』が加えられました。

税制

PERPに積立金として入金した金額は、前年度の職業課税所得額の10%を上限に、その年の課税所得金額から減額することができます(但し上限あり。2019年度現在の上限額は31,786ユーロ)。PERPは所得税率が高い世帯にとっては非常にうまみのある商品でしたが、所得の低い世帯にはさほど面白くない商品でした。なぜかといいますと、例えば所得税率が41 % の世帯の人がPERPに5,000 ユーロを入金すると、その節税効果は2,050 ユーロ にも上りますが、所得税率が14 % の世帯の場合、同じ金額を入金しても節税効果は僅か700ユーロにしかならないからです。PERPには『必ず年金として受け取らなければならない』(つまり途中でお金を口座から引きだすことはできない)という厳しい制約がありますので、それなりの節税効果を得られないのであれば利用する価値はあまりありません。PERPは日本語に直訳すると『庶民的な年金プラン』となりますが、実際のところは所得税率の高い世帯のための商品だったのです。

 ところが新商品PERでは、所得税率が高い人はもちろん、所得税率が低い人にとっても面白みのある商品となっています。新商品においては、入金時に節税の恩恵を受けるか、それとも入金時には敢えて節税の恩恵を受けないか、各自の状況によって決めることができるのです。入金時に節税の恩恵を受けると、将来の年金受取時の税負担が高くなり、入金時に節税の恩恵を受けないことにすると、受取時の税負担が低くなる、という仕組みになります。「入金時と出金時、どちらの税負担を低くしたいか」の選択になるのです。所得税率の高い世帯は現役時代の税負担を減らした方がお得なケースがほとんどですので、入金時に節税の恩恵を受けるのがいいでしょう。反対に所得税率が低い人は、入金時ではなく、受取時に税制の恩恵を受けられるようなやり方を選ぶのが得策と言えるでしょう。 それぞれのケースにおける税制は次のようになります。

【引退後、終身年金として受け取る場合の税制】

商品名 入金時の節税 終身年金として受け取る際の税制
PERP 受ける 公的年金と同様、年金額から10%の控除額(上限あり)が引かれた後、【各自の所得税率+社会保障費負担9.1%】が課せられる。
PER 受ける 所得税に関しては、PERPと同様、年金額から10%の控除額(上限あり)が引かれた後、各自の所得税率が課せられる。社会保障費負担は、終身年金を受け取り始めた時点の年齢による割合(60歳~69歳なら受け取った年金の40%、 70歳以上は30%に当たる金額)にのみ、17.2%が課せられる。
  受けない 終身年金を受け取り始めた時点の年齢により課税対象額が変わる。 60歳~69歳なら受け取った年金の40%、 70歳以上は30%に当たる金額部分にのみ【各自の所得税率+社会保障費負担17.2%】が課せられる。


【引退後、まとめてお金を引き出す場合の税制】

商品名 入金時の節税 まとめてお金を引き出す際の税制
PERP 受ける 受取金額全体から10%の控除を引いた後 、次の2種類から選択できる。
1. 【各自の所得税率+社会保障費負担9.1%】
2. 【税金7.5%+社会保障費負担9.1%】
PER 受ける 元本部分 : 各自の所得税率が適用。社会保障費負担はなし。
利益部分 : 所得税と社会保障費負担合わせて30%の税負担。
  受けない 元本部分 : 非課税。
利益部分 : 所得税と社会保障費負担合わせて30%の税負担。

ここで注目したいのは、PERに入金したお金を所得控除すると(つまり節税の恩恵を受けながら入金すると)、年金であろうが、一括引き出しであろうが、将来お金を引き出す際に、元本部分も課税されてしまう、ということです。「元本にまで課税されてしまうなんて、損をしてしまうじゃないか!」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、決して損をしている訳ではありません。例えば所得税率45%の人が『入金時の節税を受ける』ことを選択して、PERに10,000ユーロ入金したとします。すると、その年の課税所得から10,000ユーロを引いた後の金額のみが所得税の課税対象となります。所得税率45%の人の課税対象額が10,000ユーロも少なくなったら、節税効果は大きいですよね。でも政府の側からしたらどうでしょう?本来、手に入れられるはずだった所得税を、政府が国民にプレゼントしてくれるのでしょうか?そんな訳はありませんよね。そこで将来、PERからお金を受け取る際に、その昔、課税を見逃してもらった金額に対して、所得税が要求されるのです。とは言え、通常は現役時代よりも、年金生活時の方が所得税率が低くなりますので、同じ金額に課税されるのであれば、現役時代に課税されるより、年金生活に入ってから所得税を課税された方がお得だ、ということになるのです。

PERP、PERの所得控除上限額

新商品のPER、そして既存のPERP 、共に、前年度の職業課税所得額の10%を上限に、所得控除を受けることができます。控除の上限額は家族のメンバーによって違いますが、確定申告の際に『夫婦の上限額を合算する』というオプションを選択することも可能です。もし過去にこの上限枠を使い切っていなかったら、過去3年分の未使用の枠をまとめて使うことができます。

昨年までは納税証明書の最後に『個人年金の控除上限額』が記載されていたのですが、今年の夏に送られてきた納税証明書にはなぜかその表示がありませんでした。理由は明らかにされておりませんが、本年度から導入された源泉徴収方式のせいなのではないか、と言われています。本年度の控除上限額を知るためには、各自が税務署に直接問い合わせなければならない、という面倒なことになっています。

ちなみに来年からは再び、各自の上限額が納税証明書に記載されることが、つい最近、政府より伝えられました。

Assurance VieからPERへお金を移す際の特別優遇措置

通常の預金や株取引口座ですと、毎年利息・譲渡益から所得税を支払わなければなりませんが、Assurance Vieでは、口座からお金を引き出す際にのみ、引き出された金額のうち利益部分に対して、税金が課せられます。そして契約開始から丸 8年が経過すると、課税されるべき利益の額から、独身なら 4,600ユーロ、カップルであれば 9,200ユーロの特別控除を毎年引くことができます。つまり 利益部分が、この特別控除を超えない範囲でお金を引き出せば、税金は 0、社会保障負担 17.2%を支払うのみ で済みます。

次の3つの条件を満たすと、口座開設から8年を超えたAssurance Vieからお金を引き出す際の特別控除額が2になることが、PACTE法により決定しました。

● 公的年金受給開始年齢に到達するまで、あと5年以上あること。
● 口座開設から8年を超えたAssurance Vieの口座からお金を引き出すこと。
● Assurance Vieから引き出したお金の全額を、PERに入金すること。

上記の条件を満たしてAssurance Vieの口座からお金を引き出すと、通常の2倍の金額を所得税ゼロで引き出すことができ、そのお金をPERに節税の恩恵を受けながら入金すれば、二重で所得税の軽減が図れる、という訳です。

PERの入金をどんどん増やしてもらいたい政府が考え出したこの特別税制優遇措置。適用されるのは2023年1月1日までとなります。

新商品導入に関するスケジュール

新しいことが始まる際には混乱が予想されます。そこでフランス政府は次のように段階的に従来の商品から新所品への移行のスケジュールを立てました。

2019101 
新商品PERが販売開始されました。今回ご紹介しました税制の細部が決まったのは9月でしたので、まだ販売準備が完了していない会社も多々ありますが、年末までには各社商品が出揃うことが予想されます。新商品の販売から1年の間は、従来の商品PERPを新規開設することも可能です。PERPからPERにトランスファーすることもできます。上記でご説明しましたように、PERPとPERの税制は異なりますので、政府は各自にじっくりと吟味する猶予期間を与えてくれたようです。

2020101
この日以降、PERPを開設することは、もはやできなくなります。私的年金口座を開設したい人は、新商品PERを開設することになります。既存のPERPに追加入金することは全く問題なくできます。


新しい私的年金商品はとても便利そうですね。しかしながら、場合によってはPERPを新PERにトランスファーせずに、PERPのままキープされた方がいいケースもあるので、ご判断は慎重に行われることをお勧めいたします。当社経由でPERPをご開設されていらっしゃるお客様には、新口座のPERにトランスファーされるか否か、それぞれのメリット・デメリットについて来月、ご案内をお送りいたします。

フランスの資産形成において、今後はAssurance Vieに加えて、このPERの活用が非常に重要なポイントとなりそうです。当社では250,000ユーロ(当社経由でご開設される全ての口座の入金合計額)より新規口座のご開設を受け付けております。ご興味のある方はぜひこちらのページよりご連絡くださいませ。