環境・社会問題に取り組み持続可能な社会を実現するための金融を目指す『サステナブルファイナンス』。ひと昔前はごく一部の人達だけが話題にしていたことですが、ここ最近は「投資を通じて環境や社会に配慮していきたい」と考える人が急激に増えてきました。欧州では複数の国や機関が認証ラベルを立ち上げておりますが、それぞれのラベルの種類や規模はあまり広く知られていません。今回のコラムでは欧州の主な認証ラベルの全体像、そしてフランス国内での取り組みについてご紹介します。

欧州のサステナブルファイナンスの認証ラベル

欧州のサステナブルファイナンスにおいて10種類以上のラベルが存在するのですが、その中で比較的有名な認証ラベルは9つあります。それぞれの特徴と、各ラベルを受けたファンドの運用資産総額を下記まとめてみました。

表1 欧州の主なサステナブルファイナンスの認証ラベル(2021年6月末時点)

(出典 : Novethicのデータを元に筆者が作成)

フランスのSRI専門会社Novethicが先月公表したレポートによりますと、2021年度初めにサステナブルファイナンスの認証ラベルを得たファンドの運用総資産額は1兆ユーロ(約132兆円)を超え、その勢いは止まることなく継続しています。2年前の2019年3月時点の総資産額が940億ユーロ(約12兆4000万円)だったことを考慮すると、ここ最近の爆発的な拡大に驚かされます。サステナブルに敏感になっている投資家が増えているため、投資信託ファンドにとってこれらの認定ラベルを得ることは、商業的にも非常に大切になってきているのです。

フランスのラベルLabel ISRの改革

2019年以降、フランスの « Label ISR » とベルギーの « Towards Sustainability »が、欧州認定ラベルのトップ争いをしています。2つのラベルの大きな違いは、ベルギーのラベルは非営利団体により設定されていますが、フランスのLabel ISRは仏政府の認定ラベルである、ということです。下記のグラフはフランスのLabel ISRに認定されたファンドの運用資産総額の推移を表しています。2016年に誕生したLabel ISRの運用総額は、2021年8月末には5720億ユーロ(約76兆円)にも膨れ上がっています。前述の表の6月末時点から更に運用総額が伸びているのですね。

昨年夏より、不動産共同投資商品のSCPIや、不動産と金融のハイブリッド商品のOPCIなども、Label ISRのラベル申請ができるようになり、対象商品の範囲が広がりつつあります。まさに大成功と言えます。

表2 Label ISR認定ファンド運用資産総額の推移(単位 : 億ユーロ)

(出典 : 仏経済・財務省のデータを元に筆者が作成)

しかしながら準備が整う前にラベルが急成長し過ぎてしまったということもあり、昨年末に財務監察総監(IGF)より「欧州の他のラベルと比べて、Label ISRの基準は曖昧だ」、「ラベルを運営する委員会がうまく機能していないため、このままではラベル、ひいては国の信頼を落とす危険性がある」といった手厳しいコメントを出されてしまいました。ちなみに財務監察総監(IGF)とは政府内にあるチェック機関の一つです。

財務監察総監からの改善アドバイスを受け、ブリュノ・ル・メール経済・財務・復興大臣今年の3月に、ラベルの改革を行うことを発表しました。約半年にわたり様々な関連機関との話し合いを経て、この秋、10月11日にミシェル・パパラルド氏を新たな代表に迎え、Label ISR運営のための組織が生まれ変わりました。改革後も『認証ラベルのオーナーは国である』ということに変わりはありませんし、そのことはLabel ISRのオフィシャル・サイトにも明記されています。

パパラルド氏は、ミシェル・バルニエ氏と二コラ・ユロ氏が環境相だった頃に、大臣キャビネ(大臣の元に設置されているチーム)のトップとして勤めた経験を持つ、環境問題に以前より深く関わっている優秀な女性です。新委員長は、Label ISRがこれからも投資家に支持され続けるために、基準の透明性を高め、社会・環境への貢献がきちんと行われているかどうかの審査基準を厳しくする意向や、フランスの他の2つのラベルである « Greenfin »(グリーン投資に特化した国の認証ラベル)と « Finansol »(雇用創出や社会的住宅など連帯ファイナンスの非営利団体による認証ラベル)との連帯を強めたいという意欲を示しています。来年、Label ISRの新しい認定基準が発表される予定です。


今回のコラムでご紹介した欧州の認証ラベルがついていなくても、ESGに真剣に取り組んでいる優秀なファンドはもちろん沢山あります。例えば米系のファンドはフランス産のLabel ISRを申請していないところがほとんどですが、社内にESGに関する大きい部署を何年も前から設置している米系アセット・マネージメント会社は多々ありますし、必ずしも認証ラベルにこだわる必要はありません。モーニングスター、«Quantalys»、«Euronext funds360» など、フランスで販売されているファンドを検索できるサイトでは、サステナブルファイナンスに関する独自の格付けが表示されておりますので、そういったページをチェックするのもファンド選びに役立ちます。私もお客様にファンドをご紹介する前には必ず、関係者向け説明会でアセット・マネージメント各社の取り組みを確認したり、複数の格付け会社のサイトでESGに関する項目をチェックしたりしています。投資を通じてよりよい社会や環境に向けて貢献していけたら嬉しいですね。