フランス各地で抗議デモを巻き起こした年金改革法案でしたが、遂に先月、正式に成立しました。この改革によって、何が変わるのでしょうか?今回の年金改革のメインとなるいくつかの事項を確認してみましょう。

年金支給開始年齢が62歳に引き上げ

フランスでは今まで60歳から年金受給を開始することができたのですが、今回の改革でその年齢が62歳に引き上げられることになりました。具体的には1951年7月1日以降に生まれた人は60歳4ヶ月から年金受給開始が可能になり、1952年生まれの人は60歳8ヶ月から、1953年生まれの人は61歳から、と徐々に受給開始年齢が引き上げられ、1956年以降に生まれた人は62歳から年金を受け取ることが可能になります。

満額拠出期間の引き上げ

日本では、20歳から60歳になるまでの40年間保険料を納めると、65歳から満額の老齢基礎年金がもらえます。フランスの満額拠出期間も以前は40年だったのですが、年金支給開始年齢の引き上げと同様、誕生年により徐々に引き上げられることになりました。ちなみにフランスでは、拠出期間が年単位ではなく四半期単位で数えられます。1948年以前に生まれた人は160四半期(つまり40年間)で満額の年金を受け取ることができたのですが、1949年生まれの人は161四半期(40年と3ヶ月)が必要になり、1950年生まれの人は162四半期、1951年生まれの人は163四半期、と徐々に上がります。2010年末までに正式に発布される法令により、1953年、1954年生まれの人は165四半期(41年3ヶ月)が満額拠出期間となります。1955年以降に生まれた人に対しても、来年以降、毎年新しい(つまり、より長い)満額拠出期間が決められることになっています。一体満額拠出期間は今後どれ位まで増えるのでしょうか?今年の6月にエリック・ブルト元労働相が発表した年金制度改革案の中では『満額拠出期間を2020年までに41年6ヶ月(166四半期)に徐々に伸ばす』という項目が含まれていましたが、現在の政府の財政難を考えると、それ以上の期間が要求される、ということも十分に有り得ます。

最高の給付率を得ることができる年齢

フランスの年金制度はとても複雑です。日本では20歳以上60歳未満の全ての国民が国民年金という一つの制度に加入しますが、フランスでは会社員、公務員、自由業者といった、その人の職業身分により、加入する年金機関が異なります。それぞれの年金機関により受給金額を算出する方法も違うので、この場で全てをご説明することはできませんが、ちょっと強引にまとめると、どの年金機関でも通常、ベースとなる金額に給付率を掛けることにより年金額を求めることができます。前述の満額拠出期間を満たした人には最高の給付率が与えられますが、例えば「20年しか年金に加入しなかった」など満額拠出期間に満たなかった人は、この給付率が下げられてしまいます。しかしそのような人に対する救済策として、「年金受給年齢を遅らせれば最高の給付率を与える」という決まりがあります。今回の年金改革以前は、「年金を65歳から受給する場合には、年金加入四半期数に関わらず、最高の給付率が適用される」ということでしたが、その年齢が65歳から67歳に引き上げられてしまいました。この年齢の引き上げも先程と同様、生まれた年により、徐々に引き上げられることになります。年金加入期間が短かった人は、67歳から年金をもらうことにすれば、年金額が少し上がる、という訳ですね。

会社員の年金計算式を例に取ってみましょう

今回の年金改革を踏まえて、会社員の年金がどのように計算されることになるのか、具体的に例を挙げて見てみましょう。会社員の基礎年金の計算式は次のようになります。


会社員の場合、上の計算式の中の『給付率』は、満額年金を受給するのに必要な拠出期間を満たした場合に、最高の50%になります。年金加入期間が満額拠出期間に満たない場合は、不足期間1四半期につき、一定の割合ずつ給付率が減少します。その給付率の減少率も生まれた年により異なります。但し、給付率が減少するのは『不足期間20四半期まで』と決められていますので、1953年以降に生まれた人の場合、どんなに加入期間が短くても給付率は37.5%以上になります。

先程お話しましたように、給付率、そして満額拠出期間は、生まれた年により段階的に変更されることになりました。具体的には次の表のようになります。

retraite-2010

例えば1953年生まれの人の年金はどのようになるでしょうか?まずは1953年生まれの人について、上の表から分かることを書き出してみます。

・年金開始年齢は61歳。
・年金を満額でもらうために必要な年金加入期間は165四半期(つまり41年3ヶ月)。
・加入四半期数が足りなかったとしても66歳から年金をもらい始めれば、会社員の年金計算式において、最高の給付率(50%)が適用される。

仮に1953年生まれで、年金加入期間中で所得が高かった25年分の給与平均が30 000ユーロ、そして61歳になる時点で160四半期(つまり40年間)しか年金に加入していなかった人がいるとします。満額拠出期間に達するには5四半期足りません。この人が61歳から年金を受け取り始めるのであれば、足りない四半期数(この場合は5)に上記の表の給付率の減少率0.625をかけた数、つまり 5 x 0.625 = 4.375%が、給付率から引かれるのです。

よってこの人が61歳から年金を受け取る場合、基礎年金額は次のように計算されます。

30 000ユーロ x { 50 % – (0.625 % x 5) } x (160 / 165) = 13 636 ユーロ

もしこの人が66歳から年金をもらい始めるのであれば、会社員の年金計算式の真ん中にある給付率には、最高の50%が適用されます。つまり、66歳からもらえる基礎年金額は次のようになります。

30 000ユーロ x 50 % x (160 / 165) = 14 545 ユーロ

このように満額拠出期間に満たない人は、通常の年金受給開始年齢より、受給を5年遅らせることにより、少しだけ年金額を上げることができるのです。

その他の事項

今回の年金改革の一番の目玉は何と言っても年金受給開始年齢の引き上げでしたが、他にも多岐に渡り様々な事項が変更されました。例えば公務員の年金保険料が、会社員の年金保険料と同レベルに引き上げられます。また公的年金だけでは生活が厳しくなりつつあるため、個人年金を推進する動きも見られました。年金積立期間に節税の恩恵を受けながら、将来の年金準備ができるPERPという私的年金商品があるのですが、この商品は今まで、積み立てたお金は必ず終身年金という形態で受け取らなければいけない、という制約がありました。それが今回の改革により、年金受取時に残高の20%までならまとめて引き出してもいい、ということになりました。

尚、今回の年金改革は基礎年金に関してのみ行われました。フランスの年金は基礎年金プラス補足年金で成り立っています。そして補足年金制度から出る年金額は、全体の30%~70%を占めますので、今後、補足年金の改革がどのように行われるのかも重要なポイントとなることでしょう。年金改革はまだまだ続くのです。


公的年金だけでは生きていくのが難しい時代です。かと言って私的年金に必要以上の金額を積立てるのは望ましくありません。まず始めにするべきことは、自らが受け取れるであろう公的年金の金額の目安を立てることです。日本とフランス双方で働いた方は、日仏それぞれの年金機関からもらえる金額を推定しなければなりません。その作業を行った後に初めて、効率的な年金準備計画が立てられるのです。また年金準備だからといって『年金』という名前のついた商品を利用することが得策とは限りません。自らの資産状況、年収などにより、まさにケースバイケースなのです。当社では個別相談や年金セミナーにおいて、皆様の具体的な年金準備計画の作成をお手伝いさせていただいております。PARIS FPは将来の年金準備を真剣にお考えになりたい方を応援しています。