今からちょうど1年前に、こちらのコラムで2010年度のフランス不動産市場の動向を取り上げました。当時、不動産業界や金融機関による2010年度の相場の予想は-5%~+3%でした。実際のところ2010年度の不動産価格はどのように移行したのでしょうか?FNAIM(仏不動産連盟)によると、フランス全土の中古物件価格の平均価格は1.5%上昇したそうです。ただし地域によりその騰落率は大きく異なりました。下記の表では2009年第4四半期と2010年第4四半期の不動産価格を比べた場合の騰落率の動向を示しています。

表1 地域ごとの価格の傾向(左がアパルトマン、右が一戸建ての価格の動き)

tendances-des-prix-en-region-2010(出典 : FNAIM)

この表から見て取れるように、2010年度の不動産価格はフランス全土において上昇したのではなく、地域により相当のばらつきが認められました。例えばパリ市内の不動産価格は15%以上も上昇し、ミニバブルとも呼べるような高騰を見せています。FNAIMによるとパリ市内の1平方メートルあたりの金額は7 645ユーロと、2008年の金融危機以前の相場を上回り、史上最高の価格を記録しました。

不動産価格の上昇を支える最大の要因は、昨年と同様、非常に低いレベルで移行している住宅ローンの金利です。下記のグラフは2001年以降の住宅ローン平均金利の推移を示しています。

表2 住宅ローン金利の推移
(出典 : CREDIT LOGEMENT / CSA)

2008年~2010年における各年の第4四半期の平均金利と平均返済期間は次のようになっていました。
(出典 : CREDIT LOGEMENT / CSA)

金融危機以降、景気対策のため各国の中央銀行は政策金利を史上最低レベルにまで下げ、金融緩和策により莫大な金額をマーケットに流し込んでいます。その影響を受け、ローン金利もどんどん低くなりました。但し異常な低金利をあまりにも長期化させると、いずれハイパー・インフレが起こりかねませんので、遅かれ早かれ、中央銀行は金利を上げていくことでしょう。それが今年の年末になるのか、あるいは来年に入ってからになるのか、現状では分かりませんが、そう遠くない将来に金利が上昇することは確実です。よって年内はかろうじて低金利ローンが不動産市場を支えられるかもしれませんが、来年以降もその状況が続くかどうかはかなり疑問です。

他にも次のような要因が不動産価格に影響を与えると思われます。

1. 信用不安による不動産投資の終焉

リーマン・ショックを発端とした今回の金融危機以後、相変わらず信用不安が根強く国民の間に渦巻いています。信用不安が起こると、世界のマネーは『より安定した価値がある』と考えられている不動産や金などに流れやすくなるものです。しかし徐々にではありますが、各国の経済も上向きになり始め、企業の業績も着実によくなっているので、2011年は株式市場が本格的に上昇する可能性も秘めています。そうなると投資家たちにとって、株式市場という他の魅力的な投資先が登場することになりますので、以前よりも不動産市場に投入される金額は少なくなるかもしれません。

2. 減税措置付き不動産投資Scellierのメリットの減少

フランスには節税効果を生み出す様々な投資が存在しますが、特に不動産投資により減税する方法は非常に数多く用意されています。しかしながら財政に苦しむフランス政府は、このような減税措置の優遇を大幅に削減せざるを得ない状況に陥っています。Scellier減税措置にもその矛先が向きました。昨年末までのScellier減税措置では、9年以上にわたり賃貸をする目的で新築不動産物件を購入した人が、物件価格の25%に当たる金額(上限あり)を9年間に分散して、本来支払うべき所得税額から減額することが可能でした。本年度からその減税割合が減少し、物件価格の13%に当たる金額のみの減税(一定基準を満たすエコ住宅なら22%)へと変更になりました。Scellier減税措置の条件が良かった2010年末までに不動産投資を仕込んだ投資家達も多いようです。減税の恩恵がぐっと少なくなった2011年度、投資家の減少は避けられないでしょう。

3. 新ゼロ金利ローンの登場

昨年9月にこちらのコラムでもご紹介しましたが、2011年1月1日から新ゼロ金利ローンが導入されました。この新制度が、果たして不動産市場に対してプラスの影響をもたらすのか、マイナスの影響をもたらすのか、現段階では未知数です。昨年9月のコラムに記載した様々なケースの検証をご覧いただければ分かるように、まさにケース・バイ・ケースですので、新ゼロ金利ローンが導入されたから一気にマイホーム購入希望者が増える、といったことにはならないかもしれません。


昨年初めに、専門家達が2010年度の不動産市場を予測した際には、上昇するという意見と下落するという意見が入り混じり、それこそ各自の展望はばらばらでしたが、本年度に関して言うと、ほぼ一貫して誰もが『2011年度のフランス全土の不動産価格は緩やかに上昇する』と予想しています。但しパリやその他の大都市においては『穏やか』な上昇ではなく、10%以上の高騰を想定する人もかなり多いようです。しかしながら、不動産市場の中期的な展望となると、途端に懐疑的な意見が増えます。上記のような不安定要素が数多く存在するので無理もありませんね。先行きが不透明な時代は、まだまだ続いてしまいそうです。