FNAIM(仏不動産連盟)によると、フランスの中古不動産市場価格は1997年から2007年にかけて何と140%も上昇しました。まさに不動産バブルと呼べるような価格高騰でしたが、そのバブルは激しくはじけることなしに、徐々に収縮し始めました。不動産価格の下落が緩やかなもので済んだ大きな理由の一つとして、2007年から導入された住宅ローンに関する減税措置(当社の2007年8月18日付けコラムをご参照ください)が挙げられます。しかしながら2008年以降の金融危機から始まる景気減退の波からは逃れられず、フランスの中古物件の不動産価格は2008年に-3.1%、2009年に-4,9%と下落しています。フランス全土の中古不動産価格の年間上昇率の推移をグラフで見てみましょう。

表1 フランス全土の中古不動産価格の年間上昇率の推移

(出典 : FNAIM)

グラフから読み取れますように、2004年の年末をピークに不動産価格の年間上昇率は徐々に下がり、2008年後半から遂にマイナスになり始めました。ところが景気が低迷する中、2009年第4四半期からは穏やかな回復の兆しを見せています。なぜフランスの不動産市場は大きな下落を免れることができたのでしょうか?2010年はどのような展開になるのでしょうか?不動産市場に大きな影響を及ぼすであろういくつかのポイントからこれらの問題を考えてみましょう。

住宅ローン金利の低下

2006年から徐々に上昇していた住宅ローンの金利ですが、リーマンショックの直後からは急降下しています。OBSERVATOIRE CREDIT LOGEMENT / CSAの調べによると、保険料抜きの住宅ローンの平均金利は2009年第4四半期(9月から12月)において3.79%でした。1年前の2008年第4四半期の平均金利(5.07%)と比べると、なんと約1.30%も下がったのです。ちなみにローンの返済期間の平均は17.75年でした。

表2 住宅ローン金利の推移

(出典 : CREDIT LOGEMENT / CSA)

この1年で住宅ローンの利率が大きく下がり融資を受けやすくなったため、本来なら景気減退で需要が弱まるところ、住宅ローンを組んで購入を決意する人たちが増え、不動産市場を支えた、というのが2009年の状況でした。

さて住宅ローン金利の今後の推移ですが、現在、既にかなり低いレベルにありますので、昨年と同じペース(-1.3%)で下がることはまずあり得ないでしょう。つまり住宅ローン金利の下落による更なる需要の増加は、昨年ほど見込めないことになります。このまま低水準で金利が移動し続ければ問題はないのですが、万が一、年内に金利の上昇が始まると、不動産市場に対する悪影響は避けられないものとなりそうです。

値ごろ感

ここまで高騰した不動産市場ですから、一旦ある程度の調整期間を経てから、再び上昇気流に乗るというシナリオが自然である、という見方が大半を占めています。しかし現段階では、フランスで90年代前半に起こった不動産クラッシュの時のようには、価格は下がっていません。よって不動産業界にはさほど悲壮感がなく、「僅かな調整の後に、再び不動産市場は上昇する。だから今が買い時!」という声もかなり聞かれるようになりました。

FNAIM(仏不動産連盟)が出している中古物件価格に関する指数のグラフを見てみましょう。こちらのグラフでは2000年の価格を100として、2000年から2009年にかけてどのように価格が移行したかを表しています。

表3 フランス全土の中古不動産価格の指数(2000年度の価格を100として計算)

(出典 : FNAIM)

アパルトマンの2009年の価格は、2005年後半のレベルにまで落ちていることが分かります。確かに値ごろ感が出始めている、と言えるかもしれません。ただし、これまでの価格の高騰を考慮すると、あと更に10%は下がる余地がある、と言う専門家も数多く存在します。不動産価格が今後上昇するか、再び下落するかの鍵を握るのが次にお話しする失業率の動向だと言われています。

失業率

OECDによると昨年11月時点でのフランスの失業率は10%でした。フランスの失業率は2008年から大きく上昇しています。ここ10年の失業率の推移をINSEEのグラフで確認してみましょう。

表4 失業率の推移

(出典 : INSEE)

INSEEではまだ2009年の第3四半期の数字までしか発表していませんが、その後も失業率は上昇しています。よって上記のグラフは今後しばらくの間、右肩上がりに推移することになるでしょう。失業率が上がると雇用不安のために消費者心理は大きく後退しますから、住宅購入どころではなくなってしまいます。2010年度の失業率の改善に関しては、懐疑的な意見を持つエコノミストが大多数のようです。失業率の点から考えると、2010年の不動産市場が大きくプラスに動くことはない、という可能性が高そうです。


このように2010年の不動産市場は先行きが非常に不透明です。最後に面白い数字をご紹介しましょう。2月2日付けのLes Echos紙の記事に、不動産業界や金融機関のエコノミスト達の本年度の不動産市場の価格変動予測が掲載されていました。通常、価格上昇が見込まれる時は、程度の差こそあれ、誰もがプラス成長を予測し、その反対に下落が見込まれる時は、誰もがマイナスの数字を想定するものなのですが、2010年は各自の予測にプラス・マイナスが入り混じっており、非常に予想が立てにくい相場であることが読み取れます。

(出典 : Les Echos紙)

一般的に、不動産業界はプラス成長を予測し、エコノミスト達は軒並みマイナス成長を予測しているようです。果たして実際のところはどうなるのでしょうか?また一年後にこちらのコラムで検証してみたいと思います。