昨年末から大きな話題を巻き起こしているギリシャ問題ですが、3月半ばに入りようやく過度な警戒感は後退してきたようです。ギリシャ危機はユーロという統一通貨の問題点を、投資家たちに改めて再認識させました。今回のコラムでは、まだ解決まで相当の時間を要するであろうギリシャ問題について取り上げてみました。

ユーロの発足とギリシャの加入

今回のギリシャ危機を発端にユーロが大幅に下落しましたが、まずはそのユーロの歴史に遡ってみましょう。ユーロは1999年1月1日に11カ国で、当初は決済通貨として発足しました。18ヶ月遅れてギリシャが加わり、2002年1月1日にはユーロの現金の流通が開始しました。ユーロ圏に加わるためには、マーストリヒト基準をクリアーしなければならないことになっています。この基準は1) 物価、2) 政府の財務状態、3) 為替相場、4) 長期金利の4つの項目に分かれているのですが、今回のギリシャ問題で注目されているのは2番目の『政府の財務状態』です。マーストリヒト基準では、単年度の財政赤字がGDPの3%以内であること、政府の債務総額がGDPの60%以内であること、が定められています。

ユーロの参加基準には、1997年の数値が採用されることになっていました。そこで各国は1997年度の財政赤字を減らすために、しのぎを削りました。フランスでは、フランス・テレコムの民営化の際に、「会社は民営化されるけれど、会社の年金基金は政府部門が受け取る」という方法を取ることにより57億2000万ユーロ(当時の375億フラン)が歳入として計上されました。更には法人税・社会保障費負担の引き上げや公務員の年金加入期間の延長などにより、なんとか基準をクリアーしました。イタリアでは国防費削減、年金支給開始年齢の引き上げ、国有企業の民営化、またユーロ税なるものの導入まで行われました。ユーロ圏内の最大経済大国であるドイツでさえ、付加価値税(TVA)の引き上げ、健康保険の医薬品自己負担の引き上げなど大掛かりな政策をもって、ようやく財政赤字をGDP比3%以内に収めることができたのです。

このように各国苦肉の策を講じて1997年度の財政赤字は基準内に収めたものの、政府債務総額に関しては実のところ、ほとんどの国が当初から基準を満たしていません。1997年時点に政府債務総額が対GDP比で60%未満だった国は、ユーロ発足時の加盟国11か国中、フランス(58%)、ルクセンブルグ(6.7%)、フィンランド(55.8%)の僅か3国のみでした。債務の削減は急にできるものではありませんから、この点は恒常的に容認されているのが現状です。そもそもユーロ圏全体の債務が規定のGDP比60%未満になったことは、ユーロ発足以来、未だかつて一度もないのです。

2001年にギリシャは12番目のユーロ加盟国となりました。ギリシャの1997年度の財政赤字はGDP比4%、政府債務総額は108.7%でした。どちらも基準を満たしていませんが、1998年の財政赤字が2.5%、1999年には1.9%になる、という見通しが立てられていたため、「改善が認められる」ということでユーロへの参加が承認されたのです。政府債務総額に関しては、既にユーロに参加していたベルギーとイタリアが120%以上の債務を負っていましたので、この点も容認されました。

ギリシャ問題の発覚と緊急財政措置

2009年10月にギリシャの政権は中道右派から中道左派へと移りました。その翌月、新政権は2009年度の財政赤字予測を旧政権が発表していた数値から引き上げました。それも「旧政権は財政赤字予測をGDP比3.7%としていたが、実際のところ12.7%に達する見込みだ」という大幅な引き上げだったため、市場に大変な混乱を引き起こしました。格付け会社スタンダード&プアーズ(S&P)とフィッチ・レーティングスは、即座にギリシャ国債の格付けを引き下げ、昨年12月にはなんと「BBBプラス」になってしまいました。BBBとは投資適格債として最低のレベルを示します。またゴールドマンサックスが通貨スワップにより、ギリシャの債務隠しに加担していた、というニュースまで流れ始めました。

ギリシャ政府は財政赤字を立て直すため、次々と新政策を採択しました。中でも3月3日に採択された緊急財政措置は48億ユーロ(同国GDPの2%)を捻出する大規模なもので、公務員給与の大幅カットと、付加価値税率(TVA)を現行の19%から21%に引き上げることが含まれています。2012年までに、財政赤字をマーストリヒト基準であるGDP比3%以内に収めることが目標です。

3月4日にギリシャは10年国債の入札を実施し50億ユーロの資金調達に成功しました。ギリシャは今年約540億ユーロを借り入れる必要があるので、今回の国債入札で投資家のお金を集めることができるのかどうかが注目されていました。ふたを開けてみれば、資金集め自体は成功したものの、当然ながら投資家たちが財政難に陥っているギリシャに対して求める上乗せ金利幅は非常に高く、落札金利は6.25%(ドイツ国債を約3%上回る金利)になってしまいました。EUに提出した赤字削減計画の中で、ギリシャ政府は新発国債の金利を平均約4.7%と想定しています。3月4日の金利を見る限り、ギリシャ政府の国債の利払いコストは、政府が予想するよりも遥かに高くなることになり、予定通りの赤字削減は不可能になってしまいます。

EU諸国の対応

ユーロ圏ではPIIGS(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン)と呼ばれる財政面で弱い国々があり、仮に今回のギリシャ危機を逃れたとしても、他の国が問題を巻き起こす可能性があります。市場にはユーロの存続自体を疑問視する人も出てきました。また昨年末ギリシャ国債のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)が激しく高騰したことも、ニュースで大きく取り上げられました。CDSとは、債券が債務不履行に陥れば満額を受け取れる保険のようなものです。ギリシャ国債の格付けが下がり、債券価格が下落すると、ギリシャ国債の保有者たちは何らかの形で、その値下がりリスクをヘッジしなければなりません。CDSを購入すれば、万が一ギリシャが破綻して、ギリシャ国債が償還されなくなっても(つまりギリシャ政府に貸したお金が戻ってこなくても)、CDSからの保険が下りるため安心だ、ということになります。ギリシャ国債など、債券を保有している人たちが債務不履行リスクをヘッジするためにCDSを利用する、というのが本来のCDSの使い方ですが、現状では、債券を持たない人たちも、投機目的にCDSの売買を行っています。主な投機筋はヘッジファンドです。ヘッジファンドこそが元凶であると言わんばかりに、ユーロ圏の中でもヘッジファンドに対するCDS規制を呼びかける声がかなりきかれるようになりました。しかしながら、確かにヘッジファンドによりボラティリティー(変動率)は高まりましたが、ヘッジ・ファンドはギリシャ国債のCDSを2009年の春先から大量に購入していたため、昨年末のギリシャ国債のCDSの価格が高騰した時は既に売り手側に回っていた、と言われています。ヘッジファンドも含め、CDSの市場に参加者が多く、十分な流動性があったお陰で、昨年末、ギリシャ国債を持つ銀行たちがヘッジのためにCDSを購入することができた、とも言えるのです。

ギリシャ危機が大きく取り上げられてから3ヶ月以上経つ今になっても、ユーロ圏からギリシャに対する支援策は具体化されていません。3月15日、ユーロ圏16カ国は財務相会合を行い、必要であればユーロ圏各国が対ギリシャの2国間で緊急融資をする、という案に合意しましたが、詳細は3月25日、26日に行われるEU首脳会議に先送りされました。ユーロ圏財務相会合議長を務めるルクセンブルグ首相のユンケル氏は、あくまでも「ギリシャが自力で資金調達できない場合に限り行われる措置である」ということを強調しています。

ユーロ圏からの支援策がなかなか固まらない中、ギリシャのパパンドレウ首相はIMF(国際通貨基金)へ支援を仰ぐ可能性も示唆し始めました。IMFがギリシャに関わることに対しては政治的な思惑もあり、多くの国が反対しています。「ギリシャがIMFに助けを求めたら、ユーロ圏諸国だけでは今回のギリシャ危機を解決できなかった、ということを世界に示すことになる」という意見や、また「サルコジ大統領が2012年の次期大統領選で、自らのライバルとなりうるIMFのストロスカーン専務理事に活躍の場を与えたくないと思っている」などという、まことしやかな噂もあります。ちなみにストロスカーン専務理事は、要請があればIMFは喜んでギリシャを支援する構えがあることを表明しています。IMFのユーロ圏版としてEMF(欧州通貨基金)の設立を唱える人もいますが、現段階では単なるアイデアの一つ、という状況です。例えEMFを設立することになったとしても、設立には相当な時間がかかりますので、ギリシャ問題に対応することはできないでしょう。


今回のギリシャ危機は、ユーロの弱さを露呈してしまった感があります。ユーロという単一通貨を持ちながらも、ユーロ圏内には財政状況の全く異なる多種多様な国々が存在します。当初定められたマーストリヒト基準も、金融危機以降、ほとんどの国で守られていない状況です。ジョージ・ソロス氏は先月CNNのインタービューの中で「ユーロは生き残れない可能性もある」との見解を示しました。そこまでの衰退はないような気がしますが、現段階で根本的な構造改革を行わない限り、ユーロが弱い通貨になってしまう可能性はあるかもしれません。ユーロ圏で暮らす方々、そしてユーロで投資をされている方々にとって、今回のギリシャ危機は非常に重要視すべき問題なのではないでしょうか。