フランス国民議会と元老院で可決され、現在、発効待ちの『税制パッケージ法案』(paquet fiscal)。サルコジ大統領が選挙期間中に掲げていた公約のメインであった数々の減税措置が盛り込まれたものとなっています。どのような内容で、誰に恩恵があるような法案なのでしょうか?今回のコラムでは、その主な内容について、詳しく見ていきたいと思います。

直接税の上限が50%に

直接税の合計の上限が、以前は所得金額の60%だったところ、50%に引き下げられました。ここで言う『直接税』とは住民税、固定資産税、所得税、富裕税、社会保障負担金(CSG)、社会債務返済負担金(CRDS)の合計を指します。これまでは『直接税』の定義に社会保障負担金(CSG)、社会債務返済負担金(CRDS)は含まれていませんでした。(以前との比較は前々回のコラム『サルコジ新大統領の公約』をご覧ください)この新しい上限は2007年以降に支払う税金(つまり2006年以降の所得に課せられた直接税)に対して適用されることになります。

また今までは直接税の合計が上限を超えた場合、税務署に申告して、その超過分の払い戻しを受ける、という手続きを取っていたのですが、これが簡素化されました。これからは富裕税(ISF)を課せられている人は、その申告の際、自ら超過分を計算し、その金額が富裕税から減額される、ということになります。

住宅ローン減税

主たる居住用の住居の購入のために住宅ローンを組んだ場合、最初の5年間に限り、支払った利息額の20%が所得税額から特別控除されます。ただし初年度に限り、特別控除の金額は支払った利息額の40%になります。所得税を支払っていない世帯に対しては、その金額が国庫から小切手で渡されます。控除額には家族構成によって次のような上限が設けられています。(初年度は下記の金額の2倍が上限となります)

● 一人世帯 750ユーロ(住宅ローンの利息部分3,750ユーロ〈上限〉x 20%)
● 二人世帯 1,500ユーロ(住宅ローンの利息部分7,500ユーロ〈上限〉x 20%)
上記の額に、扶養家族一人当たり、更に100ユーロが追加されます。
また障害者に対しては上記の額が倍、つまり一人世帯の控除額上限が1,500ユーロ、二人世帯は3,000ユーロになります。

この減税措置は2007年5月6日以降の物件の購入・建設に関するローンに適用されます。

相続税

結婚またはPACSのパートナーが他界した場合、パートナー間の相続において、相続税は一切課せられないことになりました。以前は夫婦財産別契約を結んでいるカップルの場合、一方の死亡時に多額の相続税が発生するケースが非常に多かったのです。また子供に対しての相続税基礎控除額が一人当たり50,000から150,000ユーロへ、兄弟姉妹に対しては5,000から15,000ユーロへ、甥や姪に対しては5,000から7,500ユーロへと、その額が引き上げられました。障害者に対してはそれぞれの控除額に更に150,000ユーロが追加されます。

贈与税

贈与税の計算体系は、(贈与取得財産の課税価格-基礎控除額)x税率=納付税額となります。この基礎控除(いわゆる非課税枠)は6年ごとに適用されます。この基礎控除額が引き上げられました。以前は親から子への贈与税の基礎控除額が50,000ユーロだったところ、今回の改正で150,000ユーロになりました。これは片方の親から各子供に贈与する場合の控除額なので、父と母、両方から子供に贈与をする場合、6年ごとにその贈与額が300,000ユーロを超えなければ、贈与税は一切課せられない、ということになります。先程の相続税の時と同様、障害者に対してはそれぞれの控除額に更に150,000ユーロが追加されます。

これとは別枠で、65歳未満の人が満18歳以上の子供や孫(それらがいない場合は姪や甥)に現金30,000ユーロを贈与できるようになります。しかしこれは6年ごとの適用ではなく、一人の受贈者に対して一度きりしか実行できません。

上記の相続税・贈与税に関する減税措置は、2007年8月22日以降の相続・贈与に適用され始めました。

富裕税(ISF)

富裕税(ISF)を課せられている世帯は、課税資産の評価額を計算する際に、主たる住居の資産評価額の30%を控除できることになりました。ちなみに以前の控除額は資産評価額の20%でした。また、中小企業に出資したり、特定の団体に対する寄付をした場合は、50,000ユーロを限度にその出資額の75%が、ISFから控除されることになります。

最高50,000ユーロがISFから控除される、というのは非常に思い切った政策といえます。そもそも50,000ユーロの富裕税を支払っている人とは、どの位の資産を持つ人なのでしょうか?2007年現在のISF税率で計算すると、ISFの課税資産評価額が5,697,692ユーロの人が50,000ユーロの富裕税を課せられています。今回の法案が発効された後は、これだけの資産を持っている人でも、66,666ユーロを中小企業に出資しさえすれば、ISFの全額が控除される、ということになるのです。

25歳未満の学生の所得税

25歳以下の学生が働いた場合、その年収については、月額SMIC(法定最低賃金)の3倍の金額(2006年7月1日現在、その月額SMICの3倍の金額とは3750ユーロとなります)を上限として、所得税は一切払わなくてもいい、ということになりました。

これまでも学生の所得に対する免税はありましたが、今までは21歳以下の学生が、夏のバイトなど休暇中に稼いだ収入(2,509ユーロを限度)のみが対象でした。

残業分の給与に対する減税

2007年10月1日分から、残業分(週35時間を越えた部分)の給与には所得税が課せられなくなり、社会保障負担も軽減されることになりました。この改正により政府は国民の購買力向上を期待しています。『もっと働き、もっと稼ぐ』というコンセプトを支持するサルコジ大統領を象徴するような法案です。また雇用者に対しても、社会保障費の軽減が行われることになりました。『税制パッケージ』の中で、政府にとって一番の出費になるであろう法案はこの残業分の給与に対する減税なのです。ラガルド経済相によると、その負担額は毎年60億ユーロ、つまり『税制パッケージ』全体の負担額の半分に及ぶだろうと推定されています。


フランス政府はこの税制パッケージによって、経済成長率を2%から2.5%、できれば3%に引き上げることを目標にしています。与党UMPのジル・カレ氏は、もし政府がこの目標を達成することができれば、税制パッケージの負担と、財政赤字の両方を賄うことが可能だと考えています。ちなみに『税制パッケージ』の負担額はいくら位なのでしょうか。ラガルド経済相は、2008年度には100~110億ユーロ、 その後は毎年136億ユーロの負担に及ぶだろうとしています。これだけの負担と財政赤字の問題を一挙に解決できるほど、果たしてフランス経済は成長するのでしょうか?『もっと働き、もっと稼ぐ』がどれだけフランス人たちの間に浸透するのか、その成果が経済の成長率となって現れるのかどうか、じっくり見守りたいところですね。