サルコジ大統領は2007年の大統領就任時に「フランスの不動産所有率を70%にする」という目標を掲げ、住宅ローン減税を導入しました。しかしながら今日の不動産所有率は57%で、この15年間ほとんど変化がありません。この10年の間に不動産価格は150%上昇しましたが、同期間中、フランス人の所得は平均で60%しか上昇していない訳ですから無理もありません。しかも低所得者たちの不動産所有率は増加するどころか、80年代後半以降、減少傾向にあります。また住宅ローン減税が財政難に苦しむ政府にとって、非常に大きな負担となっているという事実もあります。なるべく政府の負担を減らしながら、より多くのフランス人が不動産を取得できるようにと考え出されたのが、2010年9月14日にサルコジ大統領が発表したPTZ Plus (PRET A TAUX ZERO PLUS 『ゼロ金利ローン・プラス』)です。2011年1月1日から導入されるPTZ Plusは、(1) 現行のゼロ金利ローン、(2) 住宅ローン減税、(3) PASS-FONCIER、の3つの制度に取って替わります。新制度への移行により、政府の住宅支援に関する負担が現在の28億ユーロから26億ユーロに減り、更に新ゼロ金利ローンを利用できる世帯は現在の20~25万世帯から38万世帯へと大きく上昇する、と政府は推測しています。

PTZ Plusを利用するための条件は、「過去2年の間に主たる居住用住居の所有者でなかった」ということのみで、所得制限はありません。よってどんなに高い所得の人も、この新制度を利用してゼロ金利ローンを受けることが可能です。PTZ Plusによって借りられる金額は、次の3つの要素により決定されます。

1) 物件の所在地 (フランス全土は地域によりZone A、B1、B2、Cに分けられています。パリとパリ近郊やコート・ダジュール地方などはZone Aに含まれます。)
2) 新築物件か中古物件のどちらか
3) 省エネ物件かどうか(省エネラベルのBBC認定の物件かどうか、また暖房効果検査で購入物件がA~Gのどのランクに当たるのか、によって判断されます。省エネランクはAが一番優秀なランクです)

新制度により最大で何と143 600ユーロをゼロ金利で借りることができるようになります。例えば、2人の子供がいる夫婦がZone Aにある省エネ新築物件を購入する場合は124 800ユーロをゼロ金利ローンで借りることができるようになります。もしこの夫婦がZone Cにある省エネランクE、F、Gの中古物件を購入するのであれば、PTZ Plusで借りることができる金額は31 600ユーロとなります。いずれにせよ新制度によりゼロ金利で借りることができる金額は、現行のゼロ金利ローン制度に比べると大幅に上昇することになります。

PTZ Plusの返済期間は5年から30年と設定されています。返済期間は所得や家族の人数により異なります。所得が高い人ほど、短い期間で返済しなければならない仕組みとなっています。このように購入物件や家族の人数などにより複雑に条件が左右されるPTZ Plusですが、この新制度が導入されると自分にとって得になるのか、損になるのかを考える前に、まずはPTZ Plusと入れ替わりで来年度から消えていく3つの現行制度について見てみましょう。

来年度以降廃止される3つの住宅支援制度

1.現行のゼロ金利ローン
金利0%ローンは金融機関を通じて利用できる国のローンです。その名の通り、金利0%で借りれるローンです。直近2年間に居住用の物件の所有者でなかった人、そして一定の所得水準以下の人に適用されています。金利0%で借りることができる金額は、新築なのか中古なのか、どの地域の物件なのか、そして世帯人数により、大きく異なります。しかし借りることができる金額の上限は、中古物件で最大29 250ユーロ、新築で最大48 750ユーロと、あまり大きな金額ではありません。

2. 住宅ローン減税
主たる居住用住居の購入の際、一定の規格を満たす新築エコ住宅を購入する人に対しては、住宅ローンの利息部分の40%が7年間にわたり所得税から控除、それ以外の物件を購入する人に対しては、初年度は住宅ローンの利息部分の30%、2年目から5年目にかけては15%に当たる金額が控除されます(2010年に購入した人の場合)。利息部分が、一人世帯なら3 750ユーロまで、カップル世帯なら7 500ユーロまで、この税額控除が適用されます。2010年末までに住宅を購入した人は、PTZ Plusが始まった後も、今後5年(または7年)にわたり上記の減税の恩恵を受けることができます。

3. Pass-Foncier
一定の所得水準以下であること、直近2年間に居住用の物件の所有者でなかったこと、そして既に国からの住宅に関する援助 (ACCESSION SOCIALE A LA PROPRIETE) を受けていること、の3つの条件全てを満たす人が新築物件を購入する際にPass-Foncierを利用することができます。Pass-Foncierにより、前述のゼロ金利で借りれる金額の上乗せや、消費税の減額、また(ゼロ金利でない)ローンの返済時に、当初、利息部分だけを支払えばいい、という方法を選ぶことも可能になります。

新制度は旧制度より恩恵があるのか?

新しいゼロ金利ローンにより、以前よりも多い金額をゼロ金利で借りれることになりますが、その恩恵よりも、現行の住宅ローン減税が受けられなくなることのデメリットの方が大きい場合もあるようです。新制度が発表された直後に、モーゲージ・ブローカーのEmpruntis.comは、新旧制度のどちらが得かを試算した非常に興味深いデータを発表しましたので、こちらにご紹介させていただきたいと思います。

ケース1
【子供が1人いる夫婦がZone Cに省エネではない中古物件を購入】
世帯の月収 : 2 700ユーロ
全体の融資額 : 120 000ユーロ(20年固定3.6%)
現行システムからの恩恵 : 全体の融資額120 000ユーロのうち、ゼロ金利ローンで14 250ユーロ(返済期間96ヶ月)を借りることができるので、利息負担総額は45 957ユーロ。また住宅ローン減税により、5年間にわたり総額4 398ユーロが減税される。
新システムからの恩恵 : 全体の融資額のうち、ゼロ金利ローンで12 000ユーロ(返済期間96ヶ月)を借りることができるので、利息負担総額は46 437ユーロ。
新旧制度の利息負担総額の比較 : (45 957 ユーロ – 4 398ユーロ ) – 46 437 ユーロ= – 4 878ユーロ
結果 : 新制度の方が、4 878ユーロをする。

ケース2
【子供が2人いる夫婦がZone B2に新築エコ物件を購入】
世帯の月収 : 3 500ユーロ
全体の融資額 : 200 000ユーロ(25年固定3.8%)
現行システムからの恩恵 : 全体の融資額200 000ユーロのうち、ゼロ金利ローンで32 250ユーロ(返済期間108ヶ月)を借りることができるので、利息負担総額は102 737ユーロ。また住宅ローン減税により、7年間にわたり総額15 731ユーロが減税される。
新システムからの恩恵 : 全体の融資額のうち、ゼロ金利ローンで51 600ユーロ(返済期間96ヶ月)を借りることができるので、利息負担総額は98 397ユーロ。
利息負担総額の比較 : (102 737 ユーロ – 15 731ユーロ ) – 98 397 ユーロ= – 11 391ユーロ
結果 : 新制度の方が、11 391ユーロをする。

ケース3
【子供が2人いる夫婦がZone Aに省エネAランクの中古物件を購入】
世帯の月収 : 5 000ユーロ
全体の融資額 : 300 000ユーロ(25年固定3.8%)
現行システムからの恩恵 : 全体の融資額300 000ユーロのうち、ゼロ金利ローンで24 750ユーロ(返済期間72ヶ月)を借りることができるので、利息負担総額は161 271ユーロ。また住宅ローン減税により、5年間にわたり総額10 200ユーロが減税される。
新システムからの恩恵 : 全体の融資額のうち、ゼロ金利ローンで49 600ユーロ(返済期間192ヶ月)を借りることができるので、利息負担総額は139 762ユーロ。
利息負担総額の比較 : (161 271 ユーロ – 10 200ユーロ ) – 139 762 ユーロ= 11 309ユーロ
結果 : 新制度の方が、11 309ユーロをする。

ケース4
【子供のいない夫婦がZone B1に新築エコ物件を購入】
世帯の月収 : 6 000ユーロ
全体の融資額 : 300 000ユーロ(20年固定3.4%)
現行システムからの恩恵 : 現行システムではこの夫婦はゼロ金利ローンを利用することができない。利息負担総額は113 880ユーロ。住宅ローン減税により、7年間にわたり総額21 000ユーロが減税される。
新システムからの恩恵 : 全体の融資額のうち、ゼロ金利ローンで57 400ユーロ(返済期間60ヶ月)を借りることができるので、利息負担総額は107 709ユーロ。
利息負担総額の比較 : (113 880 ユーロ – 21 000ユーロ ) – 107 709ユーロ= – 14 829ユーロ
結果 : 新制度の方が、14 829ユーロをする。

ケース5
【子供のいない独身者がZone Aに省エネAランクの中古物件を購入】
世帯の月収 : 3 000ユーロ
全体の融資額 : 185 000ユーロ(25年固定3.8%)
現行システムからの恩恵 : 現行システムではこの人はゼロ金利ローンを利用することができない。利息負担総額は101 854ユーロ。住宅ローン減税により、7年間にわたり総額4 500ユーロが減税される。
新システムからの恩恵 : 全体の融資額のうち、ゼロ金利ローンで24 800ユーロ(返済期間96ヶ月)を借りることができるので、利息負担総額は96 781ユーロ。
利息負担総額の比較 : (101 854ユーロ – 4 500ユーロ ) – 96 781 ユーロ= 573ユーロ
結果 : 新制度の方が、573ユーロをする。


まさにケース・バイ・ケースですね。上記の例に示されるように、場合によっては現行システムの方が遥かに大きな恩恵を受けることもあり得ます。今、ちょうど不動産のご購入をお考えの方は、銀行、またはCAFPIEmpruntis.comといったモーゲージ・ブローカーなどにシミュレーションを依頼して、年内に購入するべきか、来年以降に購入するのか、慎重に検討されることをお勧めします。また「PTZ Plusを利用して、自分は一体いくら借りることができるのだろうか?」ということを調べるために、政府は既にオフィシャル・シミュレーション・サイトを用意していますので、ご興味のある方はぜひチェックしてみてくださいね。