1. ISF とは何か

フランスには裕福連帯税(ISF)というものが存在します。簡単な言葉で言い換えると、お金持ちだけにかかる金持ち税です。

ISFとは、フランスに居住する者で、法によって定められた課税資産評価額が1月1日時点で750,000ユーロ(2006年現在)を超える世帯に課税される税金です。ここで言う「世帯」というのは、結婚しているカップルのみならず、パックスしているカップル、そして単に同棲しているカップルまでもが「世帯」とみなされ、その資産を合計して課税評価額を出さなくてはなりません。また「資産」とは純資産のことを指すので、資産から負債を引いた額になります。

ISFの課税対象資産は、その人がフランスで暮らしているか、また海外で暮らしているか、によって変わってきます。フランス在住ならば、フランス国内、及び海外の資産が対象となり、海外在住の場合は、フランス国内に存在する資産のみが、課税対象資産になります。

750,000ユーロ以上の資産を持ち、このISFを払わなくてはならない世帯は2006年度、約45万世帯に上ります。ISFを払う世帯数は2005年度よりも更に6万世帯増えたことになります。

フランス国会予算委員会の報告によると、2006年度のISFによる税収は36億ユーロに及ぶ予定です。しかしながらISFの税収は国家税収の僅か1%を占めるに過ぎません。消費税からの国家収入(2005年度では1,453億ユーロ)や、所得税からの収入(同年542億ユーロ)に比べると、確かにISFの36億ユーロという数字は、さほど大きな数字ではないのかもしれません。

2. 計算方法の概要

まずはISFの税率を見てみましょう。

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ISFの税率は0.55~1.80%ですが、資産総額にいきなりこの税率を掛けて税額を算出するのではなく、750,000ユーロを越えた部分にのみ、これらの税率が適用されます。また、上の表の読み方は、「資産評価額750,000以上1,200,000ユーロ未満の部分に関しては0.55%、1,200,000以上2,380,000ユーロ未満の部分に関しては0.75%の税率を掛ける」というように、表の左側の金額に該当する部分ごとに計算していくことになります。文章で説明すると分かりづらいので、具体的に例を挙げてみましょう。

課税資産評価額1,500,000ユーロの人の税額計算は下のようになります。

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更に、計算された金額から家族控除(未成年の子供と身体障害者の家族一人につき150ユーロ)を引いたものが、実際に払うべき税金になります。

例えば、上の例で取り上げた家庭に未成年の子供が2人いたとすると、支払うべきISFの金額は
4,725 – (150 x 2) = 4,425 ユーロになります。

さてこれらの計算の元となる「課税資産の評価額」ですが、基本的には、その年の1月1日の市場価格を使います。しかし課税資産の種類によって、その評価額の計算方法には法で細かく定められています。

例えば、主たる住居の評価に対しては特例があります。その世帯が暮らしている不動産価値を評価する場合、不動産評価額から20%の控除が認められているのです。

簡単な例をあげてみましょう。仮に、居住している住居の資産評価額が700,000ユーロ、その他の資産評価額が150,000ユーロの世帯があったとします。主たる住居の評価額に関しては、その20%が控除されます。つまり、ISFの課税資産評価総額は
(700,000 x 80%) + 150,000 = 710,000ユーロとなり、この世帯にISFはかからないことが分かりますね。

職業上の資産、芸術品、著作権・工業所有権、非居住者の金融投資、老齢年金、障害保証金、は資産から控除されるが、森林に関してはその価値の4分の3だけが資産から控除される、などISFにおける資産評価については色々な決まりがあります。「自分の資産額からみるとどうやらISFを払わなくてはいけないようだが、資産評価額の計算方法に自信がない」という方には、税の専門家に相談されることをお勧めします。

3.ISFを巡る議論

ISFを支払わなくてはならない世帯数はここ数年で急激に伸びています。1997年(178,899世帯)から比べると、その数は2006年までに約1.5倍に跳ね上がったことになります。反対に、ISFを払った人たちの間でのISF税額の平均値は下がりつつあります。(SENAT [フランスの上院] によると1997年から2003年の間に9.1%の下落)

ここから読み取れることは、どういうことでしょうか?まずは、1997年前後からの不動産価格の高騰により資産価値が上がり、ISFを新たに払うことになった人たちが増えてきた、という事実があります。しかしながら、その人たちの資産評価総額は750,000ユーロ(ISFがかかり始める資産評価額の数字 [2006年度] )を僅かに上回る程度がほとんどです。先程お話したように、ISFは750,000を越えた部分にのみ掛かります。つまり750,000ユーロを僅かに超える資産しかもっていない場合、支払うISF税額は非常に小額になります。ISFを支払う人数は増えましたが、新たに加わった人たちが払っている税額はとても小額。結果として全体のISF税額平均値を下げている、という訳です。このように不動産価格の高騰の為だけにISFを支払い始める人が多いので、ISFは単なる『新たな不動産税』なのではないか、という批判もあります。

別の議論として、「財産にかかる税金というのであれば、既に相続税が存在するではないか。なぜ同じ財産に関して何度も税金を徴収するのか」という意見もあります。

更に他国を例に挙げてのISF批判もあります。オランダ(2001年に財産税を廃止)、ドイツ、デンマーク(どちらも1997年に廃止)、オーストリア(1994年に廃止)、アイルランド(1974年に廃止)そして日本(1950年に廃止)と、この種の税を廃止する国が多くあるにも関わらず、フランスはなぜ相変わらずISFを続けているのか、というのです。

また財産税を持つ国々の間でもフランスのISFの税率はかなり高い、ということも問題にされています。先程述べたとおり、ISFの税率は0.55~1.80%。リュクセンブルグでは一律0.5%、社会主義のスウェーデンでさえ0.5~1%です。

しかしながら「富の分配」という観点からISFの存続を望む人たちもたくさんいるのも事実です。


ISFは750,000ユーロという数字を超えた時点から掛かりますが、「財産評価額が750,000ユーロを少し超えてしまった」程度だと、あまり負担がないので心配する必要は特にありません。例えば、子供が一人いる家庭の財産評価総額が800,000ユーロの場合、支払うべきISF税額は年に僅か125ユーロです。

ただ数百万ユーロ以上を持つミリオネアにとっては、毎年かなりの負担額となってしまうので、彼らのISF対策への関心は非常に高いです。お金持ちも楽ではないですね。