日本と同様、フランスにも所得税の税額控除があります。税額控除とは、一定の要件に該当すると、本来支払うべき所得税の金額から控除を受けることができる、というものです。フランスには様々な税額控除がありますが、それぞれの税額控除に対して、それぞれの記入箇所が確定申告書に用意されています。申告の際にきちんと該当箇所に記入しないと、所得税を軽減するチャンスを逃すことになってしまいます。今回のコラムでは「こんな場合に所得税が減額される」というケースをいくつかご紹介します。

REDUCTION D’IMPOTとCREDIT D’IMPOTの違い

それぞれの税額控除の内容に入る前に、まずは『フランスの税額控除には2つの種類が存在する』ということからお話したいと思います。フランスの税額控除にはREDUCTION D’IMPOT(税金の減額)とCREDIT D’IMPOT(税金のクレジット)があります。どちらも税額控除に変わりないのですが、一つだけ大きな違いがあります。仮に所得税額3 000ユーロの世帯が、3 500ユーロのREDUCTION D’IMPOT(税金の減額)を受けられる場合、本来支払うべき所得税よりも控除額が多いので、この世帯は所得税を支払う必要はなくなります。しかし控除額の超過分500ユーロに関しては未使用のままそれっきり、となってしまいます。これがREDUCTION D’IMPOT(税金の減額)ではなくCREDIT D’IMPOT(税金のクレジット)だったらどうなるでしょうか?CREDIT D’IMPOT(税金のクレジット)の場合、超過分は小切手または振込みにより税務署が私達に支払ってくれるのです。次にご紹介する様々な税額控除では、REDUCTION D’IMPOTとCREDIT D’IMPOT、どちらが適用されるのか、についても見ていきましょう。

寄付金控除

困っている人たちに食事・住居・医療などを提供する組織に寄付をすると、その寄付金の75%に当たる金額を所得税から控除することができます。但し、控除できる金額の上限は非常に低く、寄付金495ユーロまで、つまり税額控除は371ユーロ(495ユーロx75%)となります。この控除はREDUCTION D’IMPOT(税金の減額)です。

上記よりも、もっと幅広いジャンル(文化・スポーツ・科学など)の団体に寄付する場合にも税額控除が用意されています。これらの団体への寄付金の66%に当たる額(但し年収の20%を上限とする)を所得税から控除(REDUCTION D’IMPOT)することができます。政治団体に寄付する場合も、寄付金の66%に当たる額を所得税から減額することができますが、控除を受けることができる寄付金の上限額は7 500ユーロ(選挙支援の場合は4 600ユーロ)になります。

家事などの為に誰かを雇う場合の税額控除

家政婦、家庭教師、介護人、家で子守をしてくれる人などを雇った場合、被雇用者に支払った金額の50%を所得税から減額することができます。但し控除額には上限があり、支払った金額が12 000ユーロに対してまで、つまり最高で6 000ユーロ(12 000 x 50%)の減額が可能になります。この上限額(12 000ユーロ)は世帯に子供や65歳以上の者、または障がい者がいる場合、更に上乗せされます。

REDUCTION D’IMPOT(税金の減額)かCREDIT D’IMPOT(税金のクレジット)のどちらが適用されるかは、世帯のメンバーの活動状況により変わります。働いている人、または3ヶ月以上仕事を探している人にはCREDIT D’IMPOTが適用されます。夫婦・PACS世帯では、両者がその条件を満たしていなければなりません。それ以外の場合、及び年金受給者に対してはREDUCTION D’IMPOT(税金の減額)が適用されます。

託児所などの税額控除

7歳未満の子供を自宅以外の託児施設(CRECHE, ASSISTANT MATERNEL, HALTE-GARDERIEなど)に預ける場合、2 300ユーロまでの費用に対して、その50%の金額を所得税から控除(CREDIT D’IMPOT)することができます。つまり最大で子供1人当たり1 150ユーロ(2 300ユーロx 50%)もの税額控除を受けることができるのです。

子供の学業

中学校以上の学校に通う子供がいる世帯は、ささやかなREDUCTION D’IMPOT(税金の減額)の恩恵を受けることができます。中学校に通う子供1人に対して61ユーロ、高校なら153ユーロ、大学やグランゼコールなら183ユーロが所得税から減額されます。この税額控除を受ける為には、該当箇所(確定申告書のEA、EC、EFの欄)にこれらの学校に通う子供の人数を忘れずに記入しなければなりません。

住宅ローン控除

主たる居住用住居の購入の際、住宅ローンを組んだ世帯に適用されるCREDIT D’IMPOT(税金のクレジット)です。初年度は住宅ローンの利息部分の40%、2年目から5年目は20%に当たる金額が控除されます。利息部分が一人世帯なら3 750ユーロまで、カップル世帯なら7 500ユーロまで、この税額控除が適用されます。扶養家族1人につき利息部分の上限が更に500ユーロ上乗せされます。つまり子供が2人いる夫婦が住宅ローン控除上限一杯満喫したとすると、初年度の控除額は (7500 ユーロ + 500 ユーロ + 500ユーロ) x 40% = 3 400ユーロ、2~5年目は(7 500 ユーロ + 500 ユーロ + 500ユーロ) x 20% = 1 700ユーロとなります。CREDIT D’IMPOTですので、この控除額より所得税が低い世帯に対しては、税務署から小切手、または振込みで該当額が渡されます。

さて、この住宅ローン控除、2009年1月1日以降に一定の規格を満たす新築エコ・エネルギー住宅を購入する人に対しては、更にパワーアップすることになりました。なんと住宅ローンの利息部分の40%が7年間に渡り所得税から控除されるのです。環境対策に力を入れるフランス政府の熱意が伝わってくるような新対策ですね。

持続可能な開発 (DEVELOPPEMENT DURABLE)のための改築工事に関わる税額控除

断熱材を使用した建物、太陽エネルギー利用住宅、雨水利用設備の設置など、持続可能な開発 (DEVELOPPEMENT DURABLE) の観念に基づく工事・改築を行った場合、税額控除(CREDIT D’IMPOT)を受けることができます。この税額控除が適用される工事内容は非常に明確に定義されており、租税法典 Annex4の18 bisに掲載されている工事のみ、とされています。工事内容により税額控除の割合は、工事費の15%~50%とかなり幅がありますが、いずれにせよ控除が利用できる工事費の上限は一人世帯で8000ユーロ、カップル世帯で16 000ユーロとなっています。


今回ご紹介した以外にも、フランスには様々な税額控除があります。しかしながら冒頭でもお話した通り、自ら申請しない限りこれらの恩恵は受けられません。面倒でも確定申告書にはじっくりと目を通し、必要箇所にはしっかり記入し、税額控除の権利を無駄にしないようにしましょう。