フランスは何かと規制の多い国ですが、FP業務においてもやはり様々な規制があります。規制の話に入る前に、そもそもフランスでファイナンシャル・プランナーに当たる職業は何と呼ばれているのか、についてお話しましょう。

国際機関Financial Planning Standards Board Ltd. (FPSB) には、世界のCFP認定組織が加盟しています。フランスで加盟しているのはCONSEILS EN GESTION DE PATRIMOINE CERTIFIES (CGPC) という組織です。CGPCには資産運用に関する試験に合格したConseiller en Gestion de Patrimoine達が会員として登録しています。このConseiller en Gestion de Patrimoine (日本語に訳すと『資産運用アドバイザー』)が、フランスのファイナンシャル・プランナーに当たる職業名なのです。今回のコラムではフランス版FP業である、Conseiller en Gestion de Patrimoine(以下CGPと呼ぶ)の業務に関する規制についてご紹介します。

CFP業務に関わる資格・規制

CGPを職業とするに当たっての規制は、現在のところ存在しません。しかしCGPが行ういくつかの業務に対しては、次のような規制が存在します。

1. CIF (CONSEILLERS EN INVESTISSEMENTS FINANCIERS) 《金融投資アドバイザー》

金融資産運用アドバイスを受ける側の人たちの保護や、そのアドバイスの質の向上を目指し、仏金融市場庁(AMF)が2005年から規制をかけ始めたのがこのCIFという業務です。CIFとして認定されるためには、まず次の3つの条件、1)法律・経済を専門とした高度な学歴、及びそれに準ずる学歴をフランスで取得していること、2)株・債券・為替などに関する十分な職業研修を受けていること、3)金融商品に関わる業務に2年以上携わった経験がある、のいずれかを満たしていなければならなりません。更に仏金融市場庁に承認された6つのCGP組織のどれかに所属し、一定以上の金額をカバーする損害保険に加入しなければならない、など様々な条件があります。仏金融市場庁が認めているCGP組織に加入する際に、各組織はその人が十分な経験・資格を持つ者かどうかを厳重にチェックします。審査を通過すると、CGP組織を通じて仏金融市場庁に登録依頼が行われます。

2. COURTAGE D’ASSURANCE 《保険ブローカー業務》

生命保険や、フランスの資産運用に欠かせない金融商品『Assurance Vie』を販売するには保険ブローカーの資格を持つ必要があります。保険ブローカーになるには次の2つの条件、1)150時間以上の保険ブローカー業務の研修を受けた、2)保険ブローカー業を営む会社の管理職または経営幹部職として最低1年以上勤務した、のどちらかを満たさなければならなりません。また商事会社登記簿に保険ブローカー業務を営む旨を明記し、ORIASという統一組織に加入しなければならない、などの規制があります。

3. CJA (COMPETENCE JURIDIQUE APPROPRIEE) 《適切な法律に関する知識》

結婚にまつわる契約、また相続に関してなど、資産運用をするに当たり法律に絡むアドバイスが必要となることが多々あります。CJAを持つCGPは、法律の観点も含めながら資産運用アドバイスをするができます。CJAを取得するには法律を専門とした高度な学歴を持つ事が必要になります。

4. DEMARCHAGE FINANCIER 《金融機関以外の場所での証券外務員業務》

顧客の自宅やオフィスなど、金融機関の施設以外の場所で株・債券・投資信託などの金融商品の販売行為をする際に必要な資格です。一定の学歴、あるいは2年以上の経験を持つことを条件とし、この業務をカバーする損害保険に加入しなければなりません。条件を満たした者には、販売する金融商品を提供している金融機関から証券外務員カードが渡されます。証券外務員はフランス銀行が管轄するリストに登録されています。

5.  AGENT IMMOBILIER 《不動産エージェント》

CGPの中には不動産投資の相談に乗る際に、自ら不動産エージェントも兼業し不動産投資のトータル・サービスを提供している人もいます。不動産エージェントになるためには、1)指定された一定以上の学歴を持つ、2)バカロレア資格(大学入試資格)を持ち、不動産業界で3年以上の経験を持つ、3)不動産業界で10年以上の経験を持つ、のいずれかの条件を満たさなければなりません。これらの条件を証明する書類を県庁に提出し、認められると不動産エージェントのカードが配布されます。

CGPという職業に関わる規制(フランス編)

前章で『CGPを職業とするに当たっての規制は、現在のところ存在しません』と書きましたが、実はこのコラムを書いている2008年8月現在、CGPという職業自体に規制をかけようという動きがあります。CGPという職業を法的に定義し、その業務の質や倫理を高めようという目的の下、ルイ・ジスカール・デスタン議員より提案されました。現在、独立系CGPの各組織に法案のドラフトが渡され、各組織はそのドラフトに対する意見・提案をしている最中です。どの組織も『CGPという職業がようやく法的に認められる』ということに関しては歓迎の態度を示しているものの、その具体的な規制についてはあまりいい反応を示していません。「2005年に導入されたばかりのCIF 《金融投資アドバイザー》 との規制の兼ね合いはどうするのか」 、「独立系CGPのみならず、銀行の相談員までもがCGPと認められるのは受け入れられない」、また次章で取り上げる事項である「ヨーロッパでファイナンシャル・アドバイザーの統一規制が作られようとしている今、フランス独自のCGP規制を作ることに意味があるのか?」といった意見がCGP組織から挙げられています。これらの意見を元に法案は練り直され、この秋に国会に提出される予定です。この法案が国会で通るのか、そして具体的にCGPという職業がどのような資格・経験を持つ人に与えられると定義されるのか、その行方に注目したいところです。

CGPという職業に関わる規制(ヨーロッパ編)

EUには国境を越えた職業訓練事業を行うレオナルド・ダ・ビンチ・プログラムという機関が存在します。現在その機関で、ファイナンシャル・アドバイザーとして認められるための研修・資格を欧州内で統一しよう、という計画が進められています。この計画に参加しているのは、ドイツ、イギリス、フランス、スペイン、ベルギー、イタリア、アイルランド、ポーランドの8国です。これら8国でどのような資格を持つ人がこの業界で働いているのかを調査した後、今年の秋にはヨーロッパ統一規格が発表される予定です。欧州内で引越しをしたばかり顧客にとって、欧州統一の規格があると「この人なら大丈夫」と安心して新しい担当者に相談できるようになるかもしれません。また欧州内で移動して活動しようとしているファイナンシャル・プランナーにとっては、自分の資格を国外でもすぐに認めてもらえて非常に便利になります。欧州の人と物の流通はどんどん活発になっていますが、CGPの規制を通じてもその流れを確認できるのは面白いですね。


ご覧いただいたように、CGPに関わる規制はまさに発展途上の段階にあります。このような規制の充実により、顧客側が『この業務に相応した教育を受けた経験のあるCGP』を確認しやすくなり、サービスの向上につながります。フランスでファイナンシャル・プランナーに相談する際には、その人がどのような資格を持って業務を行っているのか、事前に確認してみるといいかもしれませんね。