フランスの不動産価格が下落し始めました。FNAIM(仏不動産連盟)の月間レポートによると、2008年9月の中古物件価格は前月比3.2%減、前四半期比では2.9%減となりました。フランスでは90年代初めの不動産クラッシュ以降、10年間に渡り不動産価格が140%も上昇していました。そろそろ調整があってもおかしくない頃です。問題はその『調整』が何%程度の下落を意味するのか、ですが「今後数年間に渡り15%~30%下落するのではないか」という見方が多いようです。ちなみに90年代の不動産クラッシュでは、イル・ド・フランス地域やコート・ダ・ジュール地域の不動産価格は40%も下落しました。

現在の不動産価格の下落の理由は、「あまりに不動産価格が高くなりすぎた」「購買力の低下」「景気減退」など色々挙げられますが、「一番大きな影響を与えているのは住宅ローンだ」と言われています。今回のコラムではフランスの住宅ローンの最新情報をお届けします。

住宅ローンの金利と期間

低金利時代は終焉を迎え、住宅ローンの金利は2006年から上がり始めました。住宅ローンと保険の専門会社Empruntisによると10月17日時点の15年住宅ローン固定金利の相場は5.3%、20年では5.4%、25年では5.55%(いずれも保険料抜き)でした。

下のグラフはOBSERVATOIRE CREDIT LOGEMENT / CSAによる四半期ごとの住宅ローン(保険料抜き)の平均金利の推移を表しています。2006年に入ってから上昇の一途をたどっていることが読み取れますね。

平均住宅ローン金利の推移


住宅ローンの返済期間はどうでしょうか?先程と同様OBSERVATOIRE CREDIT LOGEMENT / CSAが発表した2008年第3四半期のレポートによると、平均18.25年(219ヶ月)となっています。興味深いのは、これまでずっと上昇傾向にあり、2007年には平均20年を超えていたローンの返済期間が、2008年から短くなり始めた、ということです。その理由は、30年、35年ローンといった超長期の住宅ローンがフランス社会にあまり馴染まないということもありますが、何よりも銀行側がリスクを取りたがらなくなったことに大きく起因しているようです。

住宅ローンを組むための条件が厳しくなった

現在、住宅ローンを組むことを拒否されてしまうケースが非常に増えています。ローン総合サイトMeilleurstaux.comによると、昨年7月時点での拒否率は申請書類全体の僅か3%でしたが、現在では8~10%にも上るそうです。サブプライム問題以降、銀行側は住宅ローンを組む際に、顧客側の条件を厳しくチェックするようになりました。安定した職に就いているかどうかの確認はもちろん、以前なら返済額が収入の35~36%になっていても認可していたところ、現在では33%以内しか認めないケースがほとんどです。また頭金も重要視されるようになりました。1年前までは、頭金どころか公証人の費用さえ持たない人でも、全額(不動産物件プラス諸経費)の融資を受けることができましたが、今では物件価格の20~30%を頭金として用意することが要求されています。

この現象は今回の金融危機で更に加速し、深刻な問題となっています。サルコジ大統領は住宅ローンを断られる国民の為に早急な対策を打ち出しました。フランスには所得上限など一定の条件を満たせば誰でも利用できる、PAS (PRET D’ACCESSION SOCIALE) という住宅ローンが存在します。その所得上限が非常に低かったため、全体の20%の世帯しかこのローンを利用することができませんでした。融資に対して慎重になりすぎている銀行の態度を懸念した政府は、PASの所得上限を来月11月1日から大幅に引き上げ、全体の60%の世帯が利用できるように改正することを決定しました。この改正により通常の融資を断られた世帯も住宅ローンを組めるようになり、不動産価格の下落に歯止めがかかることになるのでしょうか?その影響が今後どのような形で現れるのか、興味深いところです。

CREDIT RELAISが危機に

自宅を売って住み替える場合、その売却により手に入ったお金を、住み替え物件購入の代金に使う人が多いですよね。しかし住み替え物件が見つかる時期と、現在の住居の売却時期が同時に訪れるようなことは滅多にありません。自宅を売却していない段階で、住み替え物件の購入が先に決まった場合に利用できるのがCREDIT RELAISと呼ばれる住宅ローンです。CREDIT RELAISは直訳するとリレー・ローンですが、日本の『親子リレー・ローン』とは全く違います。CREDIT RELAISとは、現在の住居を売却してから手に入る予定のお金を、売却までの短期間(最高で2年)借りることができるローンです。CREDIT RELAISでは売却物件の市場価格の60~80%までしか借りれません。また現在の住居の住宅ローンが残っている場合は、市場価格の60~80%から更にその返済額を引いた分しか借りることができません。CREDIT RELAISでは、元金と利息双方を返済する方法ではなく、現在の住居が売却されるまでの間、借入金額全体に掛かる利息のみを支払う仕組みになっています。またその利息は毎月支払うか、もしくは売却時に元金と一括でまとめて支払うか選べるようになっています。CREDIT RELAISでまかなえない金額は、通常の長期の住宅ローンで補います。

このCREDIT RELAISを借りている人たちが現在、ピンチに陥っています。CREDIT RELAISの期間は最長2年間。以前は2年もあれば確実に物件を売却できましたが、不動産価格が下落し始めた今、それも定かではなくなってしまいました。しかし、売却することを見込んで住み替え物件に暮らし始めた人たちは、何が何でも以前の住居を売却しなければなりません。よって売却価格を大幅に下げてでも売りに出す人が増え、これが不動産価格の下落に拍車を掛けているとも言われています。最悪の場合、つまり2年以内に買い手が見つからなかったらどうすればいいのでしょうか?フランス政府の圧力もあり、銀行側はローン期間の引き延ばしを検討し始めたようです。住宅ローンを専門に扱うCREDIT FONCIERでは10月30日現在、CREDIT RELAISの期限を過ぎたのに物件を売却できていない顧客を700人抱えています。銀行側はそのローン期間を更に6ヶ月間延長することを発表しました。ローン期間が延びればその分、利息も増えますし、最終的には物件を売却しなければならないので、問題の引き延ばしにしかなりませんが、それでも銀行側が期限の延長を受け入れてくれることにより、パニックは回避されるでしょう。

住宅ローン関係の注目成長企業

10月23日に発行されたフランス公証人のレポートによると、公証人達は2008年度の不動産売却件数が前年比25%減になると推測しています。不動産業界は今後しばらくの間、非常に厳しい環境に置かれ、恐らく倒産に追い込まれる会社も多々出てくるであろうと言われています。そんな環境の中、住宅ローン関係で収益アップを狙う企業があります。それがモーゲージ・ブローカーです。個人の顧客が銀行を一行一行回り、住宅ローンの交渉をするという従来のやり方ではなく、独立系モーゲージ・ブローカーに依頼し、住宅ローンの手続きを全てやってもらうという方法が、近年フランス人たちの間で人気を呼んでいます。フランスでのモーゲージ・ブローカーの歴史は浅く、パイオニア的存在のCafpi以外のほとんどの会社が2000年以降に設立されました。現在ではローンを組む際にモーゲージ・ブローカーを使う人は全体の20%に上ります。米国や英国に比べるとまだまだ低い数字です。住宅ローンの件数が減っても、ブローカー利用者の割合を増やすことにより売上を伸ばすのは十分可能であると、この業種に期待が寄せられています。事実、Cafpiでは今年前半、売上を8%伸ばしました。2000年にインターネットから誕生したMeilleurtaux.comも、現在では48の営業所を持つようになりました。暗い話題が多い不動産業界ですが、このような若い成長企業が存在することは頼もしい限りです。


金利の上昇、金融危機による銀行の貸し渋り、といった住宅ローン事情が不動産市場に与える影響はとても大きいです。そしてそれ以上に、現在の世界的な景気減退は不動産市場にとって大打撃となるかもしれません。各国政府・中銀の相次ぐ素早い対策が実を結び、この景気減退が長引かないことを祈るばかりです。