皆様は、社会的責任投資についてご存知ですか?日本では英語のSocially Responsible Investment の頭文字を取ってSRIと表すことも多いですね。フランスでは、その頭文字の順序が少し変わり ISR(Investissement Socialement responsable)と呼ばれています。

自分が投資したお金が、環境破壊を促すような活動に使われたり、貧しい国々で不当に低い賃金で未成年者を働かせるような会社に流れているとしたら、あまり気持ちのいいものではありませんよね。同じ投資をするなら、環境に優しい対策に取り組み、社会的貢献をしている企業に投資しようではないか、というのが社会的責任投資の考え方なのです。そうは言っても、どのように社会的責任投資を始めたらいいのか分からない、という方にとって便利な方法があります。その名もずばり、社会的責任投資ファンドを購入する、という方法です。まず始めに、フランスにおける社会的責任投資ファンドの仕組みを見ていきましょう。

社会的責任投資ファンドとは?

社会的責任投資(SRI)ファンドに組み入れる銘柄はどのように決められているのでしょうか?軍事、ギャンブル、たばこなどの特定の業種を排除するネガティブ・スクリーニング、または、同業他社よりも環境・社会面において優れた活動に取り組む企業を選ぶポジティブ・スクリーニング、といった方法などがあります。現在、フランスではほとんどの場合、Best in Classと呼ばれる方法が使われています。

Best in Classという方法では、対象企業を特定業務分野ごとに分け、各分野ごとから財政・社会・環境面で優れた企業を選び、ファンドを構成します。しかし一概に『社会・環境面で優れた企業』といっても、どの企業が優れているのか判断するのは難しいですよね。そんな時に役立つのが、社会的適任投資の観点から企業を調査、そして格付けする機関が発表する情報です。SRI格付機関はたくさんありますが、フランスで圧倒的な存在感を誇るのがViegoです。Viegoは、社会適合性、顧客や取引企業との関係、健康、環境問題への取り組み、従業員との関係、国際社会への対応の、6つの基準から格付けを決めています。

減税商品フランスの社会的責任投資ファンド市場は?

社会的責任投資のシンクタンクとして有名なNovethicがまとめたレポートによると、フランスで販売されている社会的責任投資ファンドの総資産額は2004年末に50億ユーロだったものが、2005年末には100億ユーロ、2006年末には125億ユーロにまで拡大しました。ファンド数では、2002年末には80ファンドしかなかったのですが、2005年末には128ファンド、2006年末にはなんと137種類もの社会的責任投資ファンドが販売されるようになりました。つまり、ここ最近4年間のうちに、フランスで購入できる社会的責任投資ファンドの種類は70%も増えた、ということになります。

特筆すべきは、以前は社会的責任投資ファンドというと、社会・環境面から優れている会社の株式ファンドがほとんどでしたが、ここ最近では債券ファンドの増加が目立っているということです。社会的責任投資の債券ファンドの総資産額は2003年末には7億ユーロしかありませんでしたが、2006年末には36億ユーロに達しました。これは全てのタイプの社会的責任投資ファンドの総資産額のおよそ30%を占める額に当たるのです。

このように社会的責任投資の市場拡大が続くフランスですが、ヨーロッパ最大の市場を持つイギリスには、まだまだ追いつけそうにありません。少しデータが古いのですが、Sustainable Investment Reserch International (Siri)グループのレポートによると、2005年6月末におけるSRI型ファンドの資産残高のヨーロッパ諸国の割合は下のグラフのようになります。

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ヨーロッパで33%もの市場シェアを誇るイギリスの存在が目立ちますね。また、イギリス、フランス、イタリア、スウェーデンの4カ国だけでヨーロッパ全体の資産残高の67%を占めているというのも大変興味深いところです。

企業の社会的責任(CSR)という考え方

企業の社会的責任(CSR = Corporate Social Responsibility)とは、企業が社会活動に積極的に取り組み、環境問題に配慮しながら持続的発展をとげることを目指すという考え方です。社会的責任投資(SRI)が投資に関する考え方を表しているのに対して、企業の社会的責任では「企業はこのような行動を取るのが望ましい」という企業のあり方を示すものである、と言えるでしょう。

企業の社会的責任に真剣に取り組んでいるフランス企業の例を2つ、ここで取り上げてみたいと思います。

Air Liquide

Air Liquide は空気分離装置、水素液化装置、ガスの精製・液化などの技術を提供している会社です。フランスでは2001年の会社法の改正により、上場企業に対して、事業がもたらす社会・環境への影響について、年次報告で情報開示することが義務付けられました。多くの会社は年次報告書に参考資料として数ページ付け加えているだけなのに対して、Air Liquideでは『環境に優しい持続可能な発展』という独立した項目を設け、13ページにも渡って詳細を記載しています。また、長期的な視野を持つ会社なので、その株主構成や経営陣も安定しているのです。1902年に設立され現在に至るまでの104年間の間に、会社の経営を担ってきた代表取締役の人数は僅か5人。落ち着いた人事が行われているようです。従業員に対しても優しい環境が整っています。例えばAir Liquideの女性管理職の割合は40%にも上ります。よりよい環境作りのための研究費も惜しみません。なんと研究費の50%が、エネルギーの節約、環境エネルギーの利用の促進など、『持続可能な発展』費用として計上されているのです。

Essilor

Essilorはメガネ・レンズ、コンタクト・レンズ業界において、世界を代表する会社です。Essilorでは昨年、450人もの従業員たちが環境問題に関する研修を受けました。この会社は、アフリカなど発展途上国における起業を支援するために、地域開発を助ける機関を通じて、積極的に資金の投資を行っています。更に、『世界中すべての人たちの視力の維持と矯正を』ということをスローガンとして掲げているEssilorは、資金面の援助のみならず、製品の援助も行っています。例えばインドのAravind協会に対して、1億人分の視力治療製品を寄付を行ったりもしているのです。


フランスにおける社会的責任投資の概要がお分かりいただけたでしょうか?人と環境を大切にする、というロハスな生き方を、今日では投資にも活用することが可能なのです。社会的責任投資ファンドを購入する、または社会的責任を果たしている会社の株を購入するなど、人と地球に優しい投資を始めてみるのもいいかもしれませんね。