2008年は株式市場にとって非常に厳しい年でした。フランスを代表する株価指数CAC40は、創設以来最悪のマイナス42.68%を記録。S&P500は 38.49%下落、 日経225は42.12%、上海総合は65.39%の下落と、世界中の株価指数が暴落しました。「恐らく2009年度中には株価が底を打つだろう」と言われてはいるものの、多くのアナリストたちは本年度の株式市場に対しても暗い見通しを立てています。もちろん、オバマ大統領就任後は祝賀ムードで相場が上昇する可能性がありますし、各国政府が矢継ぎ早に打ち出す政策がその成果を見せてくれることでしょう。しかしながら、今回の世界的不況の影響は計り知れないものがありますので、年間を通してみると2009年度も株式市場はマイナス成長だった、ということは十分有り得ると思われます。そこで今回のコラムでは、下げ相場で勝つためにはどのような株式投資をすればいいのか、について考えてみましょう。

ベア型ファンド

まずは下げ相場に強い投資信託についてのお話です。株価指数に連動した動きをする投資信託の中に『ブル型ファンド』『ベア型ファンド』と呼ばれるものがあります。相場が上昇すると利益が出る仕組みのファンドを『ブル型』、その反対に、相場が下落すると利益がでる(つまり相場と逆の動きをする)仕組みのファンドを『ベア型』ファンドといいます。昨年のCAC40は40%以上、下落しましたが、CAC40連動型のベア型ファンドを購入していれば、40%以上の利益を上げることができた、という訳ですね。更に、このベア型ファンドにレバレッジを効かせたタイプもあります。レバレッジ付きのベア型ファンドの場合、例えばCAC40が2%上昇したら、CAC40連動型のレバレッジ付きベア型ファンドの基準価格は4%上昇する、というような仕組みになっています。

仮にある人が「株価は年初しばらくの間は下がり続け、年半ばで大底を打ち、それからは上昇気流に乗るだろう」と考えているとします。その場合、現段階でベア型ファンドを購入、大底を打った(打ちそうだ)という頃にベア型ファンドを売却。いよいよ上昇気流に乗ってきた、ということが確認でき次第、ブル型ファンドに乗り換える、というようなストラテジーを組むことにより、株式市場が下がっている間も効率的に利益を生み出すことが可能になります。

投資信託は、基本的に一日一回しか売買できません。よってマーケットの大きな流れに従って、数ヶ月単位で取引する場合には問題ありませんが、もっと短い時間の単位、例えばデイ・トレーディングで投資信託を利用することには無理があります。ベア型ファンドの特徴を活かし、尚且つマーケット中いつでも取引可能な商品が、次にご紹介するベア型ETFです。

ベア型ETF

当社のコラムでも既に何度か取り上げているETF。株価指数や金などの商品価格に連動する商品です。これだけなら一般の投資信託でも似たような商品がありますね。しかし決定的な違いは、ETFは取引所に上場されているため、通常の株取引と同様に日中継続的に売買できる、ということです。また投資信託よりも手数料が低く抑えられているのも、特徴の一つです。ETFのことをフランスではトラッカーと呼びます。パリの証券取引所であるユーロネクスト・パリに上場しているトラッカーの数は2009年1月16日現在304種類にも及びます。そしてもちろん『ベア型トラッカー』また『レバレッジ付きベア型トラッカー』も存在します。2009年1月16日現在ユーロネクスト・パリでは、次に挙げるベア型のトラッカーが上場しています。

● SGAM ETF BEAR CAC40 (CAC40連動ベア型トラッカー)
● SGAM ETF XBEAR CAC40 (CAC40連動レバレッジ付きベア型トラッカー)
● SGAM ETF BEAR DJ EURO STOXX 50 (DJ EURO STOXX 50連動ベア型トラッカー)
● SGAM ETF XBEAR DJ EURO STOXX 50 (DJ EURO STOXX 50連動レバレッジ付きベア型トラッカー)

先述したように2008年度、CAC40は42.68%下落しましたが、CAC40連動レバレッジ付きベア型トラッカーであるSGAM ETF XBEAR CAC40は同期間、81.36%上昇しました。

このように非常に便利なETFですが、通常の株式に比べると、まだまだ流動性に劣ります。流動性の問題が気になる方には、次に挙げる『空売りをする』という方法もあります。

SRD

SRDとは『SERVICE DE REGLEMENT DEIFFERE』の頭文字を取ったもので、株の売買代金の決済を月に1度だけ行うサービスのことをいいます。同じ月に、ある株を売買し、その売買高の差額を月に1度決済する、という仕組みです。株をSRDで購入すると現金をすぐに支払わないのに株価を購入できるのですが、もちろんその分、手数料が掛かります。手数料率は株取引口座を開いている金融機関が自由に決められることになっています。例えば、ネット金融機関の大手Fortuneoでは、当日中にポジションをクローズするなら手数料なし、そうでなければ1日当たり売買代金の0,0233 %を支払うことになります。

またSRDでは『レバレッジを効かすことができる』という特徴があります。現物の株売買ですと、例えば株取引口座に5 000ユーロを入金していたら、5 000ユーロ分しか株式を購入できないのに対して、SRDでは最大25 000ユーロ(5 000ユーロの5倍)の取引ができるようになります。自分が所有している金額の数倍の額を投資できるということは確かに魅力的ですが、リスクも数倍に跳ね上がるため、レバレッジの使用は慎重に行った方がいいですね。

そしてここからが今回のテーマに絡む部分なのですが、SRDでは売りからマーケットに入ることができます。つまり空売りです。空売りをすると「株価が暴落しそうだ」という時に、持っていない株を売り、十分に値が下がってから買い戻すことができます。SRDを使わないと、購入した株が上昇した時しか利益を上げることができませんが、SRDでは株価の上昇局面でも下落局面でも、どちらでもチャンスが(リスクも、ですが)あるのです。尚、2009年1月20日現在、金融株の空売りは仏金融市場庁(AMF)により禁止されています。


今年の株式市場では、まだまだ厳しい状況が続くものと思われます。今回ご紹介した商品が役に立つ機会は多々あるでしょう。しかしながらこのような商品を利用する時は、細心の注意を払う必要があります。通常の取引ですと、株価の下落のみが損失の要因となりますが、ベア型ファンドなどをポートフォリオに取り入れる場合、株価動向の『読み』を間違えると上昇・下落、どちらでも損失を生み出す可能性があるからです。現在のようなボラティリティーの高い市場で勝つためには、日々じっくり市場を分析し、あくまでも自分が許容できるリスクの範囲内で、上記に挙げた商品なども含め、幅広い選択肢の中からストラテジーを立てることが大切なのかもしれませんね。