およそ13年間上昇し続けたフランスの不動産価格ですが、2011年に入ってから突然その勢いが止まり、ここ2~3年はじりじりと、しかし確実に価格が下がり始めています。パリも例外ではありません。下記のグラフはフランス公証人議会が公表している1980年第2四半期から2013年第4半期までのパリ市内の不動産価格指数の推移を示しています。

【表1】 パリ市内の不動産価格指数(2010年第 1四半期=100)


(パリ、イル・ド・フランス地方公証人議会のデータを元に筆者が作成)

2013年第4四半期のパリ不動産価格は、前年同期比で1.5%下落しました。上記データにおいて不動産価格のピークだった2012年第3四半期と比べると、3.6%下落しています。それでもパリの住宅価格は1平方メートル当たり8,140ユーロと、まだまだ高いレベルにあります。今後の不動産価格の動向を考える上で、ポイントとなるであろう事項を次に挙げてみました。

不動産売却益に関する昨年度の税制改正

この1年の間に、フランスでは住宅に関する非常に重要な改革が2つ行われました。まずは2013年9月から施行された不動産売却益に対する税制改革の内容について見てみましょう。

フランスでは主たる居住用の住居に関しては売却益が非課税になりますが、それ以外の物件の売却益は課税されます。不動産売却益に対する税負担とは、【所得税19%+社会保障費負担(2014年4月現在15.5%)】を意味します。加えて、売却益が50,000ユーロを超える場合、上乗せ税率として更に2~6%を支払わなければなりません。

物件の保有期間が長ければ長いほど税負担が少なくなるように、不動産の売却益から保有年数に応じて一定の控除額を引くことができ、残りの金額が課税対象となる、という仕組みになっています。その控除率が昨年9月より、次のようになりました。

【所得税計算における、保有年数ごとの控除率】
・6年未満 : 0%
・6年目~21年目 : 1年ごとに6%
・22年目 : 4%

つまり、保有期間が丸22年を超えた物件を売却する場合は所得税がかからないことになります。

社会保障費負担に関しては、また別の控除割合が設定されています。

【社会保障費負担の計算における、保有年数ごとの控除率】
・6年未満 : 0%
・6年目~21年目 : 1年ごとに1.65%
・22年目 : 1.6%
・23年目~30年目 : 1年ごとに9%

保有期間が丸30年を超えた物件を売却する場合 、社会保障費負担がかからないことになります。ちなみに今回の改革以前は、税金・社会保障費負担、共に、物件を30年以上保有しない限り、税負担をゼロにすることはできませんでした。

そして不動産市場の活性化を目指すための期間限定の特例も適用されることになりました。2013年9月1日から2014年8月31日の間の売買契約においては、上記の控除を引いた後に、特別控除として更に25%を控除することができるのです。「売却益にかかる税金を抑えるために、少し値段を下げてでも、今年の8月までに売りたい」と駆け込みで売却する人が多く出てくるとしたら、この夏に向けてもう少し不動産価格が下がるかもしれません。

法律による家賃上限設定

業界の反発を抑え込み、不動産賃貸市場に多大なる影響を与えることになるであろう新法律(loi ALUR)が今年の2月に国会で可決されました。この法律はおよそ170の条項を含むのですが、一番の目玉は何と言っても家賃上限設定に関する項目です。

この新法律により、賃貸人が法外な家賃を請求することができないよう、家賃上限が設定されることになったのです。詳細はまだ決定していませんが、現段階で分かっている情報によりますと、パリ、ニース、リヨン、ボルドー他、人口50,000人以上の都市において、国がそれぞれの地域に3つの金額を設定します。1つ目は家賃の相場、2つ目は相場よりも30%低い金額、3つ目は相場よりも20%高い金額で、基本的には家賃をその上限内に収めなければなりません。しかしながら「この物件には素敵なテラスがある」、「窓から歴史的建築物が見える」、など特別な理由があれば、上限額を超えた家賃を設定することも可能です。

条件のいい素晴らしい物件であれば国が決めた金額を大幅に超える家賃を設定できるでしょうが、そうでない物件は軒並み家賃を下げなければならないことになるかもしれません。実際に法律が施行され始めないと、その影響がどの程度のものになるのか分かりませんが、全体として5%程度の家賃下落を予想する人が多いようです。この家賃上限設定、パリでは今年の秋から、他の都市でも年内にはスタートする予定です。

フランスでは、不動産価格の上昇に比べて、賃料の上昇が緩やかなため、昨今では不動産投資収益率がどんどん下がり、投資家たちは既にマーケットから撤退し始めています。例えば不動産会社ラフォーレでは、不動産売買全体における投資家の割合が、2011年度には17%だったところ、2013年度は10%までに落込んだそうです。近い将来、適用され始める家賃上限設定により、不動産投資家の減少は今後も暫く続いてしまうことでしょう。

不動産市場の鍵を握るローン金利

CREDIT LOGEMENT / CSAが発表した数字によると、2014年2月の住宅ローン平均金利は3.04%、ローン平均期間は16.6年でした。相変わらずの低金利が続いています。

【表2】 住宅ローン金利の推移(%)


(出典 : CREDIT LOGEMENT / CSA)

景気停滞を受けて、この一年というものフランスの金利は史上最低レベルに留まっています。条件がいい顧客は25年ローンを固定金利2%台で組むことも可能だそうです。

この超低金利時代が終わり、いよいよ金利が上がり始めた時に、フランスの不動産市場は本当の正念場を迎えるのではないでしょうか?「不動産価格は高いけれど、低金利でローンを組むことにより、今なら何とかぎりぎりでマイホームを購入することができる」という人たちは、金利が上昇し始めたら 、もはや購入を諦めざるをえなくなります。投資家たちにとっても借入金の金利上昇は、現時点でさえ既に芳しくない不動産収益率の更なる低下に繋がりますので、投資を控える人が増えることでしょう。

フランスの景気回復にはまだ相当な時間がかかりそうですので、金利の上昇がいつ頃から始まるのかは分かりません。しかし一つだけ確実に言える事は「いつ始まるか、は分からないけれど、金利上昇はそのうち必ず始まる」ということです。不動産価格に大きな影響を与える金利の動向には十分に注意を払う必要があります。


フランスの地方では既に価格が大きく下がり始めており、2011年のレベルと比べて20%以上、値下がりした地域もあります。フランスで下落が始まった2011年当初、パリ市内の不動産価格は何とか持ちこたえていました。当時、多くの不動産業者は「パリには需要があるので価格は下がらない」と断言していたものです。それが2012年、2013年とパリ市内でも値下がり傾向がはっきりと認められるようになり、「パリの価格は下がらない」という定説はいつの間にか取り下げられ、今度は「価格の下がっている今が買い時」というセリフが出回っています。不動産は大きな買い物ですので、5%、10%、価格が変動するだけで収益率が大きく違ってきます。今、フランスの不動産市場はまさにどう転ぶか分からない、難しい時期にあります。90年代初めのようなバブル崩壊に繋がるのでしょうか?それとも現在の調整はごく一時的なもので、1、2年後にはまた価格が上昇し始めるのでしょうか?購入する際には、宣伝文句に乗せられることなく、不動産市場を取り巻く全体の状況を見極めながら、慎重にタイミングを見極めることが大切になりそうです。