※この記事は2006年に書かれたものです。2011年度より、下記のシステムは廃止されました。

フランスでは何月に結婚するかによって、結婚した年の所得税額が違ってくることをご存知ですか?いつごろ結婚するのが一番お得なのでしょうか?

まず始めにフランスの所得税の計算の仕組みを見ていきましょう。日本では個人に所得税がかかりますが、フランスでは世帯に対して所得税がかかります。つまり家族の納税申告は共同で行うことになります。

実際の収入から経費やその他の控除を差し引いた金額が「課税対象額」(revenu net imposable)となります。この課税対象額を家族指数N(表1を参照)で割ります。その割った後の金額によって、何パーセントの税率が適用されるのかが決まります。そして最後に、世帯の課税対象額に税率をかけた金額から、さらに一定の控除額(家族の人数によって変わってくる)を引くと、それが支払う税金の額になるのです。文章で読むと分かりにくいですが、下の表のように算出されます。

【表1】 家族指数表(Nの計算)

nkeisan

【表2】 所得税の算出式 (2005年度の所得にかかる所得税の計算式)

barreme

いくつか例を挙げてみましょう。例えば課税対象額が35,000ユーロの独身の人の場合。表1から、独身の方の家族指数Nは1なので、課税対象額をNで割って、35,000/1=35,000。この金額によって税率が決まります。表2で35,000ユーロがどこに当てはまるかを見ると、下から3行目で税率は37.38%が適用されることが分かります。表2の計算式によると、課税対象額に37.38%を掛けたものから、更に人的控除額5,017.93ユーロを引くことが出来ます。実際の数字を当てはめてみると、35,000 x 37.38% – 5,017.93 x 1 = 8,065ユーロとなり、これがこの人の払う所得税です。

2人の子供を持つ夫婦の課税対象額が合計して60,000ユーロになる場合はどうでしょうか?まず、表1から家族指数Nが3であることが分かります。課税対象額をNで割って60,000/3=20,000。この20,000ユーロは表2の下から4行目に当たります。つまりこの世帯にかかる所得税率は28.26%、人的控除額は2,762.47ユーロ x N。よって所得税額は60,000 x 28.26% – 2,762.47 x 3 = 8,669ユーロですね。

基本的には上記の計算方法で所得税額が計算されますが、税額が814ユーロ未満(2005年度の所得にかかる所得税について)の場合は減税調整が行われます。

それでは本題の結婚した年の納税申告について見てみましょう。フランスでは新婚カップルは、結婚した年の所得税について3枚の申告書を提出します。最初の2枚は年初から結婚する日まで、独身者としての2人がそれぞれ出す申告書、3枚目は結婚した日から年末までの夫婦として共同の申請書です。

もう一度、所得税の計算をおさらいしてみましょう。まず課税対象額を家族指数Nで割った数字を元に税率が決まるのでしたね。税率は下の図のように段階的に上がっていきます。

tauximpots

ここで仮に課税対象額が42,000ユーロの人がいるとします。もしこの人が独身なら、税率42.62%が適用されてしまいます。上の図のAの辺りですね。もしこの人が課税対象額が同じく42,000ユーロの人と6月末日に結婚したらどうなるでしょうか?まずは独身だった最初の半年分を計算してみましょう。半年分の課税対象額は21,000ユーロなので、適用される税率はなんと28.26%にがくんと下がります。税率が上の図のAからBに移動するわけです。この例の場合、結婚相手も同じ課税対象額なので、年の前半に関しては2人にそれぞれ28.26%の税率が課せられます。年の後半は夫婦の共同申告になります。二人の半年分の課税対象額合計は42,000ユーロ。子供のいない夫婦の家族指数Nは2。課税対象額をNで割って42,000/2=21,000。これまた税率28.26%が適用されることになります。

税率がこのように階段状に上がっていくために、年の半ばに結婚すると、税率が何段階か下がる!ということになるのです。もちろん非常に収入が高くて、たとえ2人の合計課税対象額を2で割っても、相変わらず最高の税率が適用されてしまう、という方にとってこの効果はありません。収入が低くて元々税金を払っていなかった、と言う場合も同様です。

1月末に結婚した場合はどうでしょう。独身時代が短い分、その期間に相当する課税対象額は非常に低くなるでしょうから、低い税率が適用されます。しかし、残りの11か月分に関しては、もし結婚相手もほぼ同じくらいの収入であれば、独身時代と同じ税率になってしまいますね。年末に結婚した場合は、言うまでもなく独身時代とほぼ変わらない所得税を支払うことになってしまいます。年の中ごろに結婚するのが一番お得なのです。先ほど例に挙げた課税所得額が42,000ユーロのカップルは、独身時代2人合わせて21,548ユーロの所得税を払っていたところが、6月末日に結婚すると2人の所得税の合計額はたった12,688ユーロになります。8,860ユーロも節約できるわけです。

最後に、PACS(パックス)について触れたいと思います。PACSとはフランス独特の制度で、性別に関係なく、成年に達した二人の個人の間で、安定した持続的共同生活を営む為に交わされる契約のことを言います。この制度、税金については結婚とほぼ同様の取り扱いを受けます。つまり、結婚だけでなくPACSした場合も、上で説明した節税効果が得られます。結婚にしてもPACSにしても、何月にするかによって所得税が変わってくるというのはフランス独特で面白いですね。それでは、次回のコラムでお会いしましょう。

注: 上記の例は全て2005年の所得にかかる税率を元に計算されています。