フランスで非会社員として働く人々の口から「税負担が高い!」という悲鳴が上げられることがよくあります。ここで言う「税負担」には社会保障に関する保険料も含まれています。確かに負担は大きいですが、メリットもそれなりに大きいのがフランスのシステムの特徴です。今回のコラムでは、そんなメリットの一つである、自営業の出産・育児に関する様々な制度に注目してみました。下記に示す金額は全て2012年2月5日現在の数値です。

1.健康保険からの手当

職人(ARTISAN), 商人(COMMERCANT)、 自由業者(PROFESSION LIBERAL)の健康保険はRSI (REGIME SOCIALE DES INDEPENDANTS)が担当しています。RSIにより7回の妊婦定期検診、3回のエコー、そして8回の出産準備レッスンの費用が、保険協定料金の100%カバーされます。公立病院や社会保険機関と提携したクリニックで出産する場合、その出産・入院費(個室料金は別)は全てRSIが負担してくれます。

また妊娠・出産するとRSIから次に挙げるお手当金がもらえます。

● ALLOCATION FORFAITAIRE DE REPOS MATERNEL(出産休暇手当)
女性は出産のために仕事量を減らすことになってしまうので、その減少分を補うためにRSIでは一定額(SECURITE SOCIALEの月額上限)を給付しています。2012年度のその金額は 3 031ユーロで、妊娠7ヶ月目と出産後の2回に分けて支払われます。養子受け入れの場合は、養子がやってきた日に1 515.50ユーロ(SECURITE SOCIALEの月額上限の半額)がRSIから支給されます。

● INDEMNITE JOURNALIERE FORFAITAIRE D’INTERRUPTION D’ACTIVITE(休業手当)
産休手当もしっかり用意されています。44日分の産休手当として2012年度は2 192.08ユーロが支払われます。出産予定日直前の2週間を含む44日の休業期間を各自が自由に選ぶことができます。この44日間に加え、更に15日分 x 2の産休手当を受け取ることも可能です。15日分の産休手当の金額は747.30ユーロです。つまり希望すれば44日+15日+15日=74日分の産休手当として3 686.68ユーロをRSIから受け取ることができるのです。

双子・三つ子など多胎妊娠である場合、または切迫流産など妊娠に関わる重大な症状が発生した場合、上記の休業手当に加え、更に30日分の休業手当を受けることができます。金額は1 494.60ユーロです。

養子受け入れの際の休業手当の金額は一律で、養子を一人迎える場合は56日分の休業手当2 789.92ユーロ、二人以上迎える場合は86日分で4 284.52ユーロです。

妊娠・出産に関するRSIからの様々なお手当金を表にまとめると次のようになります。

被雇用者でも産休手当がもらえるというフランスのシステムは、独立して働く女性にとって非常に心強いですね。このように妊娠・出産関係の病院でかかる費用や産休手当はRSIから出ます。そしてこれとは別に、次にご紹介するCAFでも出産・育児に対する様々な手当が用意されているのです。

2.CAF (Caisses d’Allocations Familiales)からの手当

CAF(全国家族手当金庫)からの手当に関しては、当社の過去コラムでも一度、取り上げましたが、2008年の当時と現在とでは金額も変更されておりますので、繰り返しになりますが改めてご紹介させていただきたいと思います。尚、CAFからの手当は自営業者に限られたものではなく、全てのフランス居住者に扉が開かれています。

CAFには様々な手当が用意されていますが、ここではPaje (Prestation d’accueil du jeune enfant)と呼ばれる出産や養子として子供を迎え入れる際に支給される手当とAllocation familiale(家族給付)を取り挙げてみました。

Pajeには
– PRIME A LA NAISSANCE
– ALLOCATION DE BASE
– COMPLEMENT DE LIBRE CHOIX DU MODE DE GARDE
– COMPLEMENT DE LIBRE CHOIX D’ACTIVITE
の4種類があります。
一つ一つ、その内容を見てみましょう。

● PRIME A LA NAISSANCE OU A L’ADOPTION(出産手当/養子手当)
子供の出産および養子を迎えるに当たり、出産手当が支給されます。その金額は2012年2月1日現在、実子に対しては903.07ユーロ、養子に対しては1 806.14ユーロです。双子の場合、その金額は2倍になります。

出産手当をもらう為には、所得が下記の上限を超えない事が条件となります。


● ALLOCATION DE BASE(基礎手当)
先程の出産手当を受ける事ができる所得制限を満たす世帯に対して、子供が3歳になるまでの間、毎月180.62ユーロが支給されます。養子の場合は、その子を迎え入れた日から3年間の間(但し子供が20歳になるまで)、この手当を受ける事ができます。

● COMPLEMENT DE LIBRE CHOIX DU MODE DE GARDE(保育方法自由選択補足手当)
ワーキング・マザーが6歳未満の子を育てる為に、認定保育ママに預けたり、保育者を雇って自宅で子守をしてもらう際に、保育ママ・保育者に対する報酬の一部を手当金として給付してもらえます。子供の人数・年齢、その世帯の所得、また直接報酬を払うのか、紹介会社経由で払うのかにより、月々の支給額は下記のようになります。


ワーキング・マザーにとっては非常にありがたいこの手当ですが、保育ママ・保育者に支払う報酬の全額をCAFからの手当金で補うことはできません。報酬の15%に当たる金額は必ず自己負担となります。

● COMPLEMENT DE LIBRE CHOIX D’ACTIVITE(就業自由選択補足手当)
育児のために休業する、または勤務時間を短縮する際、条件を満たせば、育児休業手当を受ける事ができます。その条件とは『8四半期以上、老齢年金に加入していたこと』なのですが、どの期間においてその条件を満たすべきかは、子供の人数によって変わってきます。

月々の支給額は、完全休業か勤務時間の短縮か、また前述の基礎手当を受けているかいないかにより、下記のようになります。

上記pajeの4つの手当をご紹介しました。それでは最後に家族手当の中で最も有名なAllocations familialesを見てみましょう。

● ALLOCATIONS FAMILIALES(家族給付)
扶養している子(20歳未満)が2人以上いる場合、所得制限なしで、次の金額が毎月支給されます。

更に、子供の年齢が11歳以上になると、毎月の給付額に下記の金額がプラスされます。
– 11歳以上16歳未満 : 35.38 ユーロ
– 16歳以上20歳未満 : 62.90 ユーロ

但し、1997年4月30日以降に生まれた子に対しては、上記のように2段階に分けることなく、14歳になった翌月から62.90ユーロが20歳になるまでプラスされます 。

この年齢によりプラスされる金額ですが、子供が2人しかいない場合、上の子に対しては給付されませんので、注意が必要です。


フランスの合計特殊出生率は昨年度2.01と、4年連続で人口維持の目安である2を上回っています。日本の2010年度合計特殊出生率は1.39でしたから、その差は非常に大きいですね。フランスの高い出生率の理由には社会的・文化的背景も大きく影響していますし、今回お話したような金銭的な手当だけではとても説明しきれるものではありません。しかし会社員など被雇用者だけではなく、自営業者にも子供を作るように応援しているフランス国家の姿が、上記の制度から垣間見れるような気がします。

上記の制度、特にCAFからの手当は、自ら申請しない限り支給されないものがほとんどです。フランス居住者の方々は、どのような手当が存在するのかを把握するのはもちろん、手当を受ける条件を満たすのであれば忘れずにしっかり申請するようにしましょう。