フランスでは毎年7月1日に様々な料金が改定されます。あまりにも多くの事項が改定されるので、ここでその全てを取り上げることはできませんが、比較的重要である、と思われるものをいくつか取り上げてみました。「えっ、知らなかった!」とならないように、2010年7月1日から何がどのように変更になったのかを一つ一つ見てみましょう。

1. 郵便料金の値上げ

20gまでの普通郵便料金が、0.56ユーロから0.58ユーロに値上がりしました。1980年代、90年代においては2~4年の間、郵便料金が据え置かれることも多かったのですが、最近では1年~1年半ごとに値上げが実施されています。郵便料金の値上げは前もって発表されていたので、賢い消費家たちは金額の書いていない切手(マリアンヌ切手)や、マリアンヌ切手付きの封筒を6月末までにまとめて購入していたようです。

2. スクラップインセンティブ(廃車補助金)が減少

フランスでは10年以上所有している古い自動車を廃車にし、二酸化炭素の排出量の少ない新車を買い換える人に対して補助金が出るのですが、その補助金の額がまたしても下がることになりました。2007年に始まったこの制度(当初は『古い自動車を廃車にする』ということは条件にありませんでした)ですが、当時の補助金額は1000ユーロでした。それが2010年1月1日から700ユーロに下がり、この7月1日からはついに500ユーロにまで下がってしまいました。ちなみにこの500ユーロの補助金は『2010年7月1日から2010年12月31日までに新車を注文した場合』という期限付きです。ラガルド大臣もスクラップインセンティブを段階的に縮小し、いずれは終了することを公言していますので、もしかすると来年はこの制度はなくなるかもしれません。

3. 運賃の値上げ

SNCF(フランス国鉄)はCORAIL、INTERCITES、TER(これらは電車の種類です)の運賃を平均で2.5%値上げすることにしました。RATP(地下鉄やバスなどのパリ交通団体)では、通常の切符1枚の値段が1.6ユーロから1.7ユーロに値上がりします。定期券Navigoも7月1日から値上がりしました。Zone 1-2の1ヶ月定期券が56.60ユーロから60.40ユーロ(+6.7%)に、Zone 1-3が74.40ユーロから78.20ユーロ(+5.1%)に、Zone 1-4が91.70ユーロから95.50ユーロ(+4.1%)の大幅値上げです。

4. ガス料金の値上げ

今年の4月に値上げの発表があったばかりだというのに、今月から更にガス料金が2~4.7%値上げされることになりました。バスルームやキッチンなどの給湯器としてのみ、ガスを利用している家庭では、年間約8ユーロの負担増、ガス給湯器とガス暖房を利用している家庭では年間約45ユーロの負担増となると言われています。今年に入ってからガス料金は約15%も値上げされたのですが、その主な原因として1)春先にかけて原油価格が上昇したこと(ガス料金は原油価格に大きく影響を受けます)、2)ユーロ安によりガスの輸入代金の負担がフランス側にとって極端に上昇したこと、が挙げられます。

5. ゼロ金利ローン

フランスにはマイホームを購入する際に、一定の条件を満たせば国のローンである『金利0%ローン』を組むことができます。その条件は、購入者の所得金額や家族構成、また購入する物件が新築か中古かにより、細かく定められています。マイホーム購入希望者を応援する政策の一環として、フランス政府は一定の条件を満たす世帯が新築物件を購入するか、あるいは家を建築する場合に限り、金利0%ローンの借り入れ上限額を2009年1月15日から2009年12月31日の間、通常の2倍に設定することにしました。景気減退の影響もあり、当初の2009年12月31日という期限は半年間延長されました。今回の改定により、2010年7月1日から年末までは、通常の1.5倍に、2011年以降の借り入れ上限額は再び以前のレベルに戻ることになりました。

6. 白熱電球

電力消費が多い割りに寿命の短い白熱電球の使用を取りやめる計画がEUで実施されていますが、その流れを受けてフランスでは60Wの白熱電球の販売が7月1日から中止されることになりました。ちなみに100W以上の白熱電球に関しては昨年、既に販売が中止されています。今後のスケジュールとして、2011年8月31日に40Wの白熱電球の販売が、そして2012年12月31日に25Wの白熱電球の販売中止が予定されています。

7. 失業保険

現在フランスの失業率は9.9%で、失業保険を受けている失業者はおよそ200万人です。その人たちが受け取る失業手当の金額が7月1日から1.2%上昇することになりました。

8. 欧州圏他国との携帯通話料金の値下げ

2007年の夏から、EU諸国間の携帯電話通話料金の上限が定められるようになり、携帯事業各社はその上限以下の通話料金を設定するようになりました。その上限額はEurotarifと呼ばれ、2007年以降、毎年夏になるとその上限額が下げられています。Eurotarifが導入される前の2006年夏の平均通話料金、そして導入後のEurotarifの動きを見てみましょう。

eurotarif-v2
上記の金額にはTVA(消費税)が含まれていませんので、実際にはこれにTVAを加算した額がチャージされます。7月1日から多くの値段が上昇してしまいましたが、Eurotarifのお陰でEU圏内の携帯通話料金だけは消費者の味方をしてくれたようです。ちなみにEurotarifは遅くとも2015年までに、EU圏内の通話料金を、国内料金とほぼ同様にすることを目標に掲げていますので、嬉しいことにこの値下げはまだまだ続きそうです。


上記のEU圏内の携帯通話料金を除くと、基本的に郵便・交通・光熱費といった生活費が大きく上昇し、スクラップインセンティブや金利0%ローンの上乗せ額など国からの援助が徐々に消えつつある状況が浮かび上がってきますね。フランス政府は2010年度のGDP成長率が+1.4%、2011年度が+2.5%になると想定していますが、国民の購買力が衰え、景気対策も縮小される中で、「政府の予想する数字は楽観的過ぎる」という意見も多々あります。しかしながらユーロ安のお陰で、輸出企業の競争力が大幅に増し、フランスそしてEU諸国の経済は思ったより早く回復する、という可能性もありますので、暗雲ばかりが立ち込めている訳ではありません。いずれにせよまだ暫くの間は、予断を許さない状況が続きそうです。