フランスの著名なマネー雑誌Mieux Vivre Votre Argentで、先月、不動産市場に関する特集が組まれていました。記事の最初に『金利変動にも関わらず、直近15年でフランスの不動産価格は21%上昇』と大きく書かれたページを見て、その上昇率の低さに驚いてしまいました。これはフランス全土の数値だったので、「パリはこれよりも遥かに高いだろう」と、パリ公証人議会のデータを調べてみたところ、2025年末時点で、パリの中古物件価格は31%上昇していたことが分かりました。20〜30年前であれば、パリの不動産に投資すると15年で価格が2倍、3倍になることも珍しくありませんでしたが、そうした時代はすでに過去のものとなったようです。
2022年から2024年にかけて大きく低迷したフランス不動産市場には、2025年に入ってようやく緩やかな回復の兆しが見え始めました。しかし、米国・イスラエルによるイランへの軍事攻撃を受けて、先行きには再び不透明感が強まっています。
本稿では、昨年のフランス不動産市場の動きを振り返りつつ、今後の見通しを考えてみます。
2025年に見え始めた回復の兆し
2022年に始まった不動産危機に、ようやく底打ちの兆しが見えたのが昨年のフランス市場でした。直近12カ月のフランス全土の中古物件の売買件数は、2026年2月時点で958,000件に達し、1年前と比べると11%も増加しました。ただし、より長期の視点から過去20年の中古売買件数の推移を見ると、完全回復にはなお程遠いことが分かります。
表1 直近20年におけるフランス中古物件の売買件数(直近12カ月の累計)の推移

(出典 : フランス公証人議会)
INSEEと公証人事務所が算出している不動産価格指数によりますと、2025年第4四半期のフランス全土の中古物件価格は、前年同期比でプラス1.1%とわずかに上昇しました。
下記のグラフは、パリとパリ近郊における中古アパルトマンの1平方メートル当たり価格の推移を示しています。フランス全土で不動産価格が下がり始めたのは2022年以降ですが、パリの下落サイクルは2020年から既に始まっていたことがグラフから読み取れます。
表2 パリとパリ近郊の中古アパルトマン1平方メートルあたりの価格推移(点線で示された2026年の数値は公証人議会の予測)

(出典 : パリ公証人議会)
フランス全土の昨年の不動産価格の変動率を見ると、2022年以降、大きく下落した一部地域でのリバウンドが見受けられます。
表3 中古アパルトマン1平方メートルあたりの価格と変動率
(2025年第4四半期と前年同期比)

(出典 : フランス公証人議会)
昨年、不動産市場に底打ちの兆しが見えた背景には、住宅ローン金利の低下がありました。ところが、中東情勢の悪化を受けて、その前提が再び揺らぎつつあります。ここで、住宅ローンを取り巻く足元の環境を確認しておきましょう。
再び高まりつつある金利上昇圧力
2024年から1年以上、下がり続けた住宅ローン金利は、2025年第2四半期に底打ちし、その後はじわじわと上昇し始めています。2014年から2026年第1四半期までの住宅ローンの平均金利の推移を見てみましょう。
表4 住宅ローン平均金利の推移(%)

(出典 : OBSERVATOIRE CREDIT LOGEMENT / CSA)
中東情勢の緊迫化を受けて、インフレ再燃と購買力の低下が懸念され始めたため、銀行は融資に対して慎重な方針を取っています。OBSERVATOIRE CREDIT LOGEMENTのレポートによると、頭金や返済能力により、住宅ローンの金利にはかなり開きがあるようです。
次の表は、借り手を適用金利の水準に応じて4つのグループに分け、低いグループから順に並べたものです。最も条件がよいのが第1グループ、最も条件が厳しいのが第4グループで、第2・第3グループはその中間層に当たります。各グループの融資期間別の平均金利を見ると、第1グループと第4グループの間にはかなり大きな差があることが分かります。
表5 適用金利水準別にみた住宅ローン平均金利(4グループ、融資期間別、%)
(2026年3月時点の金利)

(出典 : OBSERVATOIRE CREDIT LOGEMENT / CSA)
十分な頭金を用意できる高所得者は低い金利で融資を受けられる一方、そうでない層は、もともと厳しい条件のもとで、より高い住宅ローン金利を負担せざるを得ません。金融環境の面でも、格差の拡大がうかがえます。こうした傾向はローン金利だけでなく、フランスの不動産市場にも随所に表れています。
不動産市場に表れるK字経済
Fnaim(仏不動産連盟)は2024年度のレポートで既に、『取引の30%以上がローンを利用しない現金購入となった』ことを指摘していました。富裕層・シニア層・投資家が市場を牽引し、地方では現金購入比率が40%近い地域もあると分析されています。同連盟は「2025年もこの傾向は続いており、現金購入者の比率はさらに上昇し、市場の下支え役となっている」という見解を示しています。
とりわけ注目されるのが、パリ高級不動産市場の底堅さです。サザビーズ、経済新聞 Les Echos 紙、不動産業者 BARNES など複数の情報源が、300万ユーロ超の価格帯の物件で需要の高まりが見られると指摘しています。その象徴ともいえるのが、歴史的邸宅であるオテル・パルティキュリエです。前年以上に引き合いが強まり、特にパリ7区・16区・マレ地区では需要が供給を大きく上回っています。こうしたパリの高級物件では、金利上昇の影響を受けにくい現金購入者が主な買い手層となっています。2025年も価格は下落せず、2026年も上昇が見込まれています。
金利上昇によって住宅購入を断念する世帯が増える一方、超富裕層はパリ中心部の邸宅を現金で取得する ―― こうした構図に、不動産市場におけるK字経済が鮮明に表れています。
不動産価格は金利動向に大きく左右され、その金利はインフレの行方と深く結びついています。足元のインフレ率は中東情勢の長期化リスクに強く影響されており、エネルギー価格の変動次第で大きく振れる可能性があります。こうした地政学的な不確実性が金利見通しを不透明にし、不動産市場の先行きを見極めにくくしているのが現状です。
