寄付金控除とは、特定の団体に支出した寄付金がある場合に受けられる所得税に関する控除です。今回はフランスの寄付金控除は、どこが日本と違うのか、また寄付金控除の本来の意義について見ていきましょう。

日本の寄付金控除

ご存知の方も多いと思いますが、ここで一度、日本の寄付金控除についておさらいしてみましょう。特定の団体に寄付金を支出した場合、次のように計算される金額を控除できます。

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このようにして算出された寄付金控除額を、総所得金額などから差し引いた金額が、その人の課税所得金額となります。寄付金控除によって、実際よりも低い所得額を申告することになり、従って課せられる所得税の額も低くなる、という仕組みになっています。

年末調整では控除できないので、所轄税務署へ確定申告を行うことになります。その際に、寄付をした機関が発行した領収書を添付しなければなりません。

フランスの寄付金控除

まずは、どのような団体が特定の団体とみなされるのか、について見ていきましょう。フランスの税務署は、寄付金控除を認める団体を大きく2つのカテゴリーに分けています。1つ目は「困っている人々を助ける団体」。貧しい人たちに料理を提供している『心のレストラン』や福祉事業や慈善事業などに営む『救世軍』などがそれに当たります。2つ目のカテゴリーは「公共社会に役立つと認められた団体」です。『フランス財団』や『カリタスフランス』などが、このカテゴリーに入ります。

寄付をした団体がどのカテゴリーに該当するかによって、控除額の算出方法が変わってきます。1つ目のカテゴリー「困っている人々を助ける団体」に寄付した場合、470ユーロ(2006年時点の数字)以下の寄付金については、その額の75%が控除額になります。470ユーロ(2006年時点の数字)を超える金額については、2つ目のカテゴリー「公共社会に役立つと認められた団体」に対する寄付金と合わせて計算されます。

それでは、「困っている人々を助ける団体」に寄付した470ユーロ(2006年時点の数字)を超える金額、及び「公共社会に役立つと認められた団体」に寄付したお金に関する控除額はどのように計算するのでしょうか?先ほどのケースよりも、控除できる金額の割合が減り、寄付金の総額の66%が控除額となります。ただし、寄付金控除は課税所得金額の20%相当額までとなっています。20%を超えた金額は、翌年度の寄付金控除の計算のときに使えばいいのです。フランスでは課税所得金額の20%相当を超えた寄付金に関しては、翌年以降5年間に渡り繰り越すことができます。

このようにして算出された寄付金控除額は、支払うべき所得税から直接控除されます。これが日本の寄付金控除との決定的な違いですね。日本の寄付金控除は総所得金額から差し引かれる金額のことを表しました。フランスでは所得税額から直接引かれるのです。専門的な言葉で表すと、日本の寄付金控除が『所得控除』に当たるのに対して、フランスの寄付金控除は『税額控除』に当たるのです。

一つ例を挙げてみましょう。仮に、本来なら3,000ユーロの所得税を払うはずの人が、フランス財団に1,000ユーロ寄付していたとします。フランス財団は2つ目のカテゴリー「公共社会に役立つと認められた団体」に入りますので、支払った寄付金の66%、つまり660ユーロが控除額になります。寄付金控除の適用で、支払うべき所得税は3,000-660=2,340ユーロに下がります。

日本とフランスの寄付金控除の違いは、まず『所得控除』か『税額控除』か、ということ。そして一定額を超えた寄付金について、フランスでは翌年以降の寄付金控除の計算に持ち越せるということも、日本と大きく違う点ですね。

寄付金控除の意義

所得税から一定額が控除されるので、一瞬、得をした気分になりますが、実際には、支払った寄付金の一部の金額が税金から控除されるだけですから、自分のお財布からお金が出て行くことには変わりありません。しかし、この寄付金控除には大きな意味があるのです。先ほど取り上げた、フランス財団に1,000ユーロ支払った人の例に戻ります。この人は本来なら3,000ユーロの所得税を払うはずでした。その3,000ユーロはどのように使われるのでしょうか ?それはフランス政府が決めることであって、具体的にどのように使われているのかは、税金を払っている側の人には分かりません。ところがこの制度を利用することで、この人は自分の所得税から660ユーロが確実にフランス財団に渡された、ということが分かるのです。

つまり、寄付金控除を利用することによって、私たち自身が税金の一部をどう使うのかを決めることができる、という訳です。津波や地震などの自然災害の被害者の方々や、フランスの貧困層の人たちに、手を差し伸べる行為を後押ししてくれる政策とも言えます。自分の税金の一部を、困っている人たちへの寄付にまわすことができる。寄付金控除とは、そういう制度なのです。